『ちょっと一杯のはずだったのに』(☆3.2) 著者:志駕晃

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 秋葉原FMの人気パーソナリティの西園寺沙也加が殺された。彼女に最後に会ったのは、ラジオディレクターで沙也加の恋人でもある矢嶋直弥だった。死体の首には、矢嶋が沙也加から貰ったものと同じネクタイが巻かれており、警察は矢嶋を疑う。矢嶋は否定するも、泥酔して記憶がない。
 さらに殺害トリックを暴けない警察からは「お前が作った密室現場の謎を解け!」と迫られ…。

Amazonより

スマホを落としただけなのに』が思いの外面白かった志駕さん。店頭に二作目が並んでいたの早速手に取りました。

 まずびっくりしたのが、一作目に比べて、会話文がちゃんと会話文になってること。一作目は話し言葉をそのまま会話文にしようとしてたところが小説として合ってなかった(小説には小説として自然な話し言葉があると思ってます)のが、今回はそこに引っ掛かる事はほぼ無かったです。

 今回は酔っ払って記憶のないうちにもしかしたら人を殺したかもしれないというお話。一作目はスマホを落としたことで主人公がとんでもない事件に巻き込まれるというサイコサスペンス調の物語でしたが、この作品はどちらかというとユーモアというかコメディというか、とにかくガラッとタッチが変わってました。

 というよりも、そもそも矢嶋が記憶が無くなるまで飲んだ量がちょっと一杯どころか、そりゃ記憶無くしてもおかしくないだろっ、と思わずツッコミ。まあ、明らかに前作のタイトルに乗っかったんでしょうね^^;;
 作者の志駕さん、もともとラジオディレクターというだけあって、ラジオ絡みの部分は細かいです。ただむやみに細かくなりすぎず、物語の邪魔をさせないバランスの良さは前作でも感じた作者の良さかもしれません。

 死体の見つかった部屋は密室。当然警察も密室を解こうとしますが、どうしても分からない。分からないなら犯人に聞け!!とばかりに、容疑者の矢嶋を巻き込んで推理合戦。この推理合戦の中身が中々バカバカしい。正統派の推理からトンデモ推理までとにかく俎上に挙げようってな勢いです。このあたりは作者が確信犯的に描いているんでしょう。刑事の口から有栖川有栖ディクスン・カーの名前が出るあたりは逆にニヤリ。

 ただ密室の謎を解いたら矢嶋の容疑が晴れるかというとそういものでもなく、矢嶋がもしもその謎を解くと警察から犯人だから解けたんだろ、と言われてしまいかねない状態。なので密室を解くだけでなく犯人も指摘しないといけないシチュエーション。
 普通に考えればかなり緊迫した状況のはずなんですが、なんでしょうこのビミョーに緩い空気は。探偵役の弁護士のキャラが緊張感に掛ける設定だからかもしれないですが、そのキャラも含めてライト系に寄っているからなんでしょうか。

 その一番の理由として勝手に想像したのは、実は著者が一番書きたかったのは密室の作り方ではなく、犯人を追い詰める手段の部分なんではないでしょうか。密室トリック自体も古典的な部分と現代のツールを組み合わせたもので、実現性はともかく(案外と密室なんてそんなものかもしれません)そんなに悪くないと思うのですが、そのあとに明らかにされる、犯人を追い詰めるために使ったある手段の説明の方がより書き込まれているし、力の入れようが伝わってきます。

 問題なのはその手段が、はぁ〜〜〜よくまあ考えたですね以上の何かを生み出さなかった為に、結果として小説自体の作り物っぽさが読後感として強くなりすぎてしまった事でしょうか。そこが今ひとつ効果を出してないので、最後の最後に残った謎が明らかになる場面も、本来は切ないの展開なのに、むしろそんな謎知らんがな、と思ってしまいました。
 どうせこの設定を全面に出すのなら、もっと遊んじゃっても良かったのかなぁ。探偵のキャラや矢嶋のダメさ加減、漫画家の設定についてもどこか勿体ないなぁというのが残ってしまいました。

 と、色々気になるところをあげましたが、読みやすさといえば明らかに良くなってると思います。小説としてのジリジリ感はデビュー作のほうがあったと思いますが、小説としての方向性が明確になればそれを活かせる小説を書かれるんじゃないかと思うので、これからも期待して読んでみようと思います。



採点  ☆3.2