『W県警の悲劇』(☆3.0) 著者:葉真中顕

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警察官であるより前に、一人の人間として、常に正しくありたいんだよ――「警察官の鑑」と誰からも尊敬されていた熊倉警部。W県警初の女性警視へと登りつめた松永菜穂子は、彼にある極秘任務を与えていた。その最中の、突然死。事故かそれとも……。事故として処理したい菜穂子の胸中を知ってか知らずか、熊倉警部の娘が事件現場についてあることに気づく。『絶叫』『凍てつく太陽』の著者が贈る、ネタバレ厳禁!前代未聞の警察小説。


Amazonより

 初の葉真中顕さんの作品。架空の県警を舞台にした連作短編集。

 基本的にはどの短編も何らかのどんでん返しが入ってます。その後味は作品によって多少違いますが、基本的にはそれを言ってしまうと作品を読む面白さが・・・というところで感想が非常に難しいです。

 W県警を舞台にしているというところでそれぞれの短編が微妙にリンクしていますが、それ自体は読んでてそこまで大きな影響は無い感じ。全短編を通して県警初の女性警視である松永菜穂子の存在が語られますが、彼女自身が大きく関わるのは最初と最後の短編のみ。それ以外は物語の主役として語られる女性の憧れの存在として名前が出るだけです。

すべての短編で女性が主人公というのは、W県警における男尊女卑の伝統を覆すために、というのが作品の根底にあってそのシンボルが松永警視。ただ覆すためにといってもバリバリに頑張るというわけではなく、主役の女性たちの立場や考え方がそれぞれの短編に反映されていて、印象の差に繋がっています。

 最初の作品「洞の奥」では警察官の鏡とされた警部の死を描いていますが、その物語の結末のダークなテイストがこの短編集の色かと思ったら、それに続く「交換日記」「ガサ入れの朝」では叙述を仕込みながらわりとホンワカテイスト。どちらのテイストが好みかというとやっぱりダーク系の方に切れ味を感じましたが、そのあたりは好みで差が分かれると思います。
 ただ、最終話の「消えた少女」では物語がある程度予測できつつも再びダークテイストな終わり方。このあたりの効果という意味ではもう少し作品集として統一した感じがあってもいいのかな、と思いました。

 この一冊だけで葉真中さんの作品が好みかどうかはなんともいえませんが、機会があればまた読んでみようとは思います。


採点  ☆3.0