『ステーションの奥の奥』(☆4.2) 著者:山口雅也

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小学六年生の陽太は吸血鬼に憧れていること以外はごく普通の小学生。そんな陽太には一風変わった叔父がいる。名前は夜之介。陽太の家の屋根裏部屋に居候している物書きだ。
そんな叔父と甥が、ある日テレビで「東京駅」が大改築されることを知り、夏休みの自由研究のテーマに選ぶことになる。取材のためさっそく「東京駅」に向かったふたりだったが、迷宮のような駅構内の霊安室で無残な死体を発見してしまう!さらに、その日の夜中、宿泊していた東京ステーション・ホテルの夜之介叔父の部屋で密室殺人事件が発生!しかも叔父の姿は消失していた。連続殺人事件なのだろうか?夜之介叔父はいったい?
陽太は名探偵志望の級友留美花と、事件の謎を解くべく奔走する…。

yahoo紹介より

 

よくよく考えたら実に久しぶりの山口さんだ。記憶が確かなら新刊で読んだ「奇遇」以来かもしれない^^;;
しかし、これは好きだ。うん、なんだか久しぶりに楽しめた山口さんな気がする。

 

「大きくなったら吸血鬼になりたい」とのたまう少年の作文から始まり、町で起こる連続血吸(?)事件、東京駅を中心に巻き起こる連続殺人。
少々文章が硬いのと、東京駅に関する薀蓄の嵐に関してどこまで子供が楽しめるか不安はあるが、そこかしこに溢れるミステリ好きな子供だったらという発想(例えば扉を見ると興奮する←誇張しすぎ?)なんかはついつい読んでてニヤッとしてしまう。
東京駅の薀蓄がどこまで真実なのかは気になるが、こういう闇の中の闇というのは子供心をついつい刺激してしまいますよね~。
開けちゃいけないものを開けるというものまたしかり(笑)。

 

そしてベラ・ルゴシの『魔人ドラキュラ』もブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』も小学校の時に体験した吸血鬼好きの僕としてはいろいろと共感するところが(←やっぱり変態?)。
第2の殺人が起こって以降の怒涛の展開、っていうかミステリとして別のベクトルを向いて走り出した時は唖然としましたが、それを踏まえた上できちんと論理的な解決(多分)していると思う。ミステリとしては反則気味だし、動機的なものも無茶しすぎだろうとは思いますが、『生ける屍の死』を書いた山口さんならこれもまたありだろう。決して違和感を感じるわけではないし。
しかしまあ、あんな事であれが呼び出されるなら1回ぐらい・・・でもそんなことをしたら少女ホラー漫画にような恐ろしい展開になりそうだなあ^^;;

 

なにより山口さんの子供時代というか、原体験というのが物語の中から窺える気がするのも、ある意味ミステリーランドとしての醍醐味の一つだと感じるし、その点はここまで刊行された作品の中でもトップクラスかな。
ただねえ、第1の被害者が○○だから制服と帽子の違和感に○○○だったというのが引っ掛かる引っ掛かる。
だって○には写ってなくても着る時に分かるだろうと・・・。

 

完成度的には『生ける屍の死』には遠く及ばないが、子供の頃これを読んだならやっぱりワクワクしてしまうだろう自分が見えてしまいました。
そういう意味でミステリーランドとしては間違いなく成功の部類に入るでしょう。

 

採点   4.2

(2006.12.26 ブログ再録)