『神の値段』(☆3.4)  著者:一色さゆり

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メディアはおろか関係者の前にも一切姿を見せない前衛芸術家・川田無名。
彼は、唯一つながりのあるギャラリー経営者の永井唯子経由で、作品を発表し続けている。
ある日唯子は、無名が1959年に描いたという作品を手の内から出してくる。
来歴などは完全に伏せられ、類似作が約六億円で落札されたほどの価値をもつ幻の作品だ。
しかし唯子は突然、何者かに殺されてしまう。
アシスタントの佐和子は、唯子を殺した犯人、無名の居場所、そして今になって作品が運びだされた理由を探るべく、動き出す。
幻の作品に記された番号から無名の意図に気づき、やがて無名が徹底して姿を現さない理由を知る――。

Amazonより

 このミス大賞は「ガン消滅の罠」「チーム・バチスタの栄光」だけ読んでますね。ミステリジャンルの中ではエンタメ寄りの賞と勝手にイメージしているんですが、読んでないのに勝手ですね、はい。

 この作品は、人前にまったく姿を見せない芸術家・川田無名の作品を巡る殺人事件がメインストーリー、基本的には無名の作品を取り扱うギャラリーに勤めている佐和子の視点で進みます。
 この佐和子という女性、めちゃくちゃ芸術に思い入れが・・・という訳ではなく、ギャラリー経営者である唯子にスカウトされて以来、なんとなく続けています。芸術に知識が無いわけではないですが、、積極的にやりたい事がある訳でもなく日々を過ごしていて・・・という、なんでしょうヒロイン的な魅力は正直そんなにないですが、微妙にリアルな生活感が漂ってます。
 
 それとは対象的にギャラリー経営者である唯子は、川田無名の作品を愛し、その作品の価値を高めることに情熱を注いでる。その存在が隠されているだけに、無名の存在を世に知らしめることが出来るのは唯子だけに、彼女の経営者としての枠を超える情熱、作品への、そして作家への思いが伝わってきます。

 そんな唯子が突然遺体となって発見されることにより、無名の作品の管理は佐和子の手に委ねられる事になります。突然大きな責任を負わされ右往左往しながらも、唯子の夫・佐伯とともにギャラリーに残された仕事に取り組みます。

 その中で唯子の死の真相、そしてなぜ無名が姿を現さないのかという謎に直面していく・・・のですが、この肝心のミステリ部分がこの小説の弱点と思います。このミステリがすごい大賞受賞作なんですけどね^^;;細かいところ・・・というか、細かくない所まで色々とツッコミたい所があるし、唯子の死の真相が明らかになってみると、あまりに雑でこんなんすぐ捕まるやん、普通、半端ない脱力感が襲います。

 じゃあ、この小説そんなに面白くないの?って言われると、実は他に読みどころがあったりします。それがいわゆる現代アートに関する部分の描写。無名の作品はいわゆる書をベースにした作品。なんとなくイメージが湧きますが、そもそも現代アートはいわゆる「名画」な作品が言われるような、「うま〜〜い」「きれ〜〜〜い」というような分かりやすい(?)作品ではない事が多い(あくまで主観)、それゆえにどう評価したらいいのか今ひとつピンと来なかったのですが、この作品を通じてなんとなくの糸口は見えたような。その創作過程も、一般的な「絵画」のイメージの創作活動とはまったく別なんだ、というのを知りました。作家とアトリエ、作家とギャラリー、そして作家とギャラリーの関係。そこに纏わる裏の世界のやり取り・・・。
 事件の真相が明らかになる中で、それまで詳細に語られていた現代アートの世界の中で、川田無名という芸術家がやろうとしていた事は、なるほど、というところで腑に落ちた。

 もしかしたら、著者が描きたかった事はこの無名の現代アートへの挑戦であり、その枠組として一番しっくり表現できるのがミステリという枠組みだった、としたら作品のバランスが圧倒的に前者に偏ってるのもなんとなく分かる。
 その分、好き嫌いも分かれるし、今後の作品がどういったバランスで描かれていくのかが、著者の今後につながっていくような気がします。


採点  ☆3.4