『恐怖小説 キリカ』(☆3.8) 著者:澤村伊智

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ホラー小説の新人賞を獲得し、僕は出版に向けて準備をはじめた。隣には支えてくれる最愛の妻・キリカ。
順風満帆な日々が続くと思われたが、友人の一人が「作家とは人格破綻者である」「作家は不幸であるべき」と一方的な妄想を僕に押し付け、嫌がらせをはじめる。ストーカー行為、誹謗中傷の手紙、最悪の贈り物。
やがて不幸(ミザリー)は、僕とキリカのとある「秘密」を暴き出すが――。

Amazonより

 「ぼぎわんが、来る」「ずうのめ人形」と、決して斬新な物ではない、むしろ王道系ながら、ホラーのツボを抑えていて、個人的には正統派ホラーの書き手として期待している澤村さん。

 3作目となったこの作品でも、現実の澤村さんと作中の「僕」がオーバラップしながら、徐々に恐怖が侵食していく展開。ちなみに今回も三部構成ということで、パターン化しようという狙いもあるんでしょうか。

 第1部は仲間内で小説を発表していた主人公が、ホラー小説大賞を受賞。作家としてデビューする事になるが、仲間の一人が自分の作家像を押し付けはじめて、、、という展開。ファンの暴走という意味では「ミザリー」を思い出すしますが、そこにあるのはファンの感情というよりももっとドス黒い雰囲気。

 そして第2部、今度は主人公の彼女、キリカの視点(手紙)で語られる物語。「ずうのめ人形」同様、同じ時間軸の物語が別の視点から語られますが、まぁ、その物語が全く想像してない方向性に。さらには今の時代の作品らしいツール、SNSであったり書評レビューも活用されているので、作者側の世界だけなく、読み手側の世界まで侵食。ネタバレっぽいですが、これをやられてしまうと、ある意味書評を書くのが怖くなっちゃいますね。

 第3部になり、視点は主人公の友人に。このあたりから、この友人も読者も、物語のどこまでがリアルでどこまでが虚構か分からなってきます。1作目、2作目が超常現象的なホラーだったのに対し、この作品はもっとリアルな世界に寄っているので、そういった意味では現実に起きてもおかしくない怖さが、この作品の怖さの肝でしょう。

 ただ怖さという意味では、好みの問題があるかもしれませんが、これまでの2作品の方が怖かったです。文章自体はこなれていて、難しい言い回しを避けてサクサク読めるだけに、この作品のようにリアルによった物語だと、エンタメ的な要素が強すぎて、内容はとっても怖いのにサラッとしてしまったように感じました。
 逆に怪談・超常現象系にあまり怖さを感じないなら、こちらの作品の方が怖く感じるかもしれないです。現実的にいえば警察が絡んできての捜査の過程やら、若干ご都合主義的な登場人物の行動などに色々と突っ込みどころはあるんですけれど、そういうところに目くじらを立てるタイプの作品ではないですしね。

 好みはあるとは思いますが、ホラー作家としての風呂敷の広さ、エンタメとしての読ませる力は改めて証明したと思いますので、これからの作品も追っかけることになりそうです。



採点  ☆3.8