『六の宮の姫君』 著者:北村薫

https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/5173W125RPL._AC_US400_FMwebp_QL65_.jpg

 
最終学年を迎えた「私」は卒論のテーマ「芥川龍之介」を掘り下げていく一方、田崎信全集の編集作業に追われる出版社で初めてのアルバイトを経験する。その縁あって、図らずも文壇の長老から芥川の謎めいた言葉を聞くことに。「あれは玉突きだね。…いや、というよりはキャッチボールだ」―王朝物の短編「六の宮の姫君」に寄せられた言辞を巡って、「私」の探偵が始まった…。
                              amazon紹介より
 

  いよいよ、“私”も最終学年になり、卒論の季節がやってきました。『秋の花』などで予告されてたように、卒論のテーマは芥川です。今回は卒論概要を決めるまでのお話って感じなのかな。

 いやあ、ある意味すごい小説ですね。だって見ず知らずの女の子が卒論のテーマを決めるだけの話になんで付き合わなきゃいかんかね~、ってなりそうですが、いえいえ、このシリーズのファンだったらついつい応援しちゃうんです。 
 しかも、今回の探偵役は完全に私!!円紫師匠も登場するのですが、今回はヒント役に徹してます。

 今回は『六の宮の姫君』を中心に、主に芥川龍之介菊池寛の比較論が繰り広げられるんですが、確かにマニアックです。マニアック ですけど、ついつい読んでしまいます。この辺はもう、北村節のなせる技というしかありません。 
物語のラスト、「キャッチボール」の意味を突き止めた彼女の姿に4年間の成長の証が伺われ、彼女を追い続けたこっちとしてはまるで父親の気分。 少しづつひとり立ちをはじめる主人公と円紫さんの関係はこれからどう変化していくのでしょうか。社会人編もますます楽しみです。

 ところで、この作品中にこんな一説があります。 主人公とバイト先のみさき書房の天城さんが、文壇の長老田崎信を訪れたときの菊池寛の作品『真珠夫人』に関する私の感想です。

「テレビの原作にぴったりの本だと思いました。波瀾万丈のドラマが流行ってますけれど、新しく作らなくても『真珠夫人』をやればいい筈です。(後略)」

 この作品の出版年は1992年。横山めぐみ主演で昼ドラで放送し、話題になったのが2002年。いやあ、すばらしい先見の明ですね。