『あなたの罪を数えましょう』(☆3.0) 著者:菅原和也

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 キャンプ中に失踪した友人たちの捜索を頼まれた、探偵夕月と助手の亮太。依頼人の三浦とともに辿りついた山奥の廃工場で、
 彼らが見つけたのは、多数の人間が監禁・惨殺された痕跡だった。
時は遡り一月前。工場に閉じ込められた六人が向き合わされた過去の罪。仲間の自殺に隠された真実を暴かなければ、死が待つ。
過去と現在、二つの物語から逸脱種探偵が導く前代未聞の真相!

Amazonより

 初菅原和也さん。綾辻行人さん絶賛という事、「SAW」を彷彿とさせそうな設定に惹かれて購入。

 監禁された6人の男女に襲いかかる悪夢を描いた過去パートと、そこから一ヶ月後に現場に辿り着いた探偵パートが交互に描かれるという構成。

 監禁パートではいきなり一人目がローラーに巻き込まれてジ・エンド。さらにはかつて死んだ彼らの友人の女性の写真と意味深なメッセージが。あからさまに過去の事件を振り返ろ、といわんばかりの状況ですが、登場人物達がそんなことには目もくれず脱出方法を探すのが逆にリアリティがある感じです。ただ、正直なところ「SAW」をはじめとするあの手のスリラーに比べるとそこまでインパクトが無いかもしれないですね。もちろん、そこまでリアルに描く必要はないわけですが。

 事件そのものの動機はある意味最初から読者に提示されている状況ですが、この作品の特徴としてはその動機よりも、過去の事件がどうして起こってしまったのか、というところに力を入れているところだと思います。小説内のいたるところにその答えへの伏線は張っているんですが、一部に気づく事ができたとしても、その全てに気づく事ができる人は殆どいないのでは無いかと。
 そこで明らかになるある意味制御しようの無い悪意という部分は、物語としてのいい意味での後味の悪さにうまく結びついていると思います。

 そんな過去パートの濃さに比べると、現代の探偵パートはちょっぴりソフト。死体を発見するシーン自体はグロいのですが、ある設定のせいである意味緊迫感というのは弱まってしまった印象。物語を並行して描くことによって、真相そのものにもたどり着きやすくなってますしね。
 また、事件を調査するなかで、度々この探偵の特異性に語り手が触れますが、正直その設定がうまく機能していたかは微妙、いうよりこういう気質のキャラは過去の探偵小説でもよくいたし。物語の締めは探偵の特異性を表しながら終わりますが、それまでの語り口がソフトだったので、効果としては今ひとつになってる印象です。

 全体としては、それぞれのパートの出来に差を感じたものの、適度な分量でもあり、それなりに面白い小説に仕上がっていると思います。

 ところでこの探偵さん、読んでて気づいたのですが前作からの続投だったんですね。少しだけ前の事件に触れるところはありますが、これから読んでもおそらく差し支えは無いかな。


採点  ☆3.0