『早朝始発の殺風景』(☆3.6) 著者:青崎有吾

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青春は気まずさでできた密室だ――。 今、最注目の若手ミステリー作家が贈る珠玉の短編集。 始発の電車で、放課後のファミレスで、観覧車のゴンドラの中で。不器用な高校生たちの関係が、小さな謎と会話を通じて、少しずつ変わってゆく――。 ワンシチュエーション(場面転換なし)&リアルタイム進行でまっすぐあなたにお届けする、五つの“青春密室劇”。書き下ろしエピローグ付き。
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 青崎有吾さんの小説は『~の殺人』以外は初めて。あのシリーズとは違って、いわゆる『日除の謎」系の短編集。
 それぞれの作品は基本的には独立してるものの、それぞれの登場人物の生活圏域がかぶっているので、ところどころに他の短編とかぶるフレーズが出てくるのが特徴でしょうか。

 ある短編の作中に出てくるフレーズ、「青春は気まずさでできた密室だ」。すべての短編が高校生たちを主人公にしたワンシュチュエーション。始発電車、ファミレス、観覧車、レストハウス、そして自宅の部屋。それぞれの場面で普通にありそうな会話と誰もが体験した事がありそうな青春の気まずさの中、最後にはそこにあった小さな謎が解き明かされていきます。

 もともと青崎さんは「図書館の殺人」でデビューした時、和製エラリー・クイーンといわれていましたが、その才能を遺憾なく発揮していると思います。すべての短編において普通の会話や描写だったものが、謎が解かれることによって実は周到に張り巡らさられた伏線だったことに気付かされます。

 さらにはミステリ部分だけではなく、謎が解き明かされたあとにはそれまでの気まずさの密室が少しだけ扉が開くという、青春ものとしてストーリーに繋がっていく展開はレベルが高いと思います。

 本作の最後にエピローグとしてすべての短編がわかりやすくリンクするところについては蛇足感が無きにしもあらずですが、全体として物語とミステリの融合レベルが高く、収穫のある短編集だと思います。

 

 

「早朝始発の殺風景」

早朝始発の列車でなぜか出会った同級生(あまり仲はよくない)の思惑はどこにある――?男女の高校生がガラガラの車内で探り合いの会話を交わす。

 

 表題作ながらその味わいは他の短編集と比べると異質な味わいを遺します。その原因は女子高生がなぜ早朝始発の電車に乗るのかというところに集約されます。一つの謎が明らかになったあとに残ったもう一つの謎の理由。その理由と目的については賛否分かれそうですが、ある意味青春の刹那かもしれません。

 

「メロンソーダ・ファクトリー」

女子高生三人はいつものファミレスにいた。いつもの放課後、いつものメロンソーダただひとつだけいつも通りでないのは、詩子が珍しく真田の意見に反対したこと。


 ファミレスで特に意味もなくおしゃべりする。それは無駄じゃなくてお互いのつながりを確かめる行為なのかもしれない。時には気まずい空気が流れても、わだかまりが解ければまたいつもの日常が戻ってくる。一話目の終わり方がなんともいえなかっただけに、このほんわかした終わり方は安心できる。

 

「夢の国に観覧車はない」

 高校生活の集大成、引退記念でやってきた幕張ソレイユランド。気になる後輩もいっしょだ。なのに、なぜ、男二人で観覧車に乗っているんだろう――。

 

 なぜ彼は語り手の為にここまでしてあげるのか。終始ボーイズラブ的な空気が漂いながらも、なぜ同じ幕張でも夢の国ではなく幕張ソレイユランドで卒業記念をしたのかという理由付けの旨さが光ります。

 

捨て猫と兄弟喧嘩」

 半年ぶりに会ったというのに、兄貴の挨拶は軽かった。いかにも社交辞令って感じのやりとり。でも、違う。相談したいのは、こんなことじゃないんだ。

 

 離婚してそれぞれに引き取られた兄と妹が、妹が偶然捨て猫を拾ったことで久しぶりに再会する。とにかく捨て猫の存在が半端ない。動物を飼ったことはないのですが、こんなドーンとした猫なら飼ってみたいなぁ。最初はお互い捨て猫の押し付けあいだったのが、捨て猫の素性が明らかになったことによってお互いのつながりを再確認剃る展開はほっこり。

 

「三月四日、午後二時半の密室」

煤木戸さんは、よりによって今日という日に学校を欠席した。そうでもなければ、いくらクラス委員だとしても家にまでお邪魔しなかっただろう。
密室の中のなれない会話は思わぬ方にころがっていき――。

 

 普段親しくないクラスメイトと二人っきりというのは、同性同士でもなにかと気まずいもの。卒業式の日にこんなきまずい密室に放り込まれるのはあれですが、最後に密室が解き離れた時見える風景はすごく大切なものになっていく予感。

 

「エピローグ」

登場人物総出演。読んでのお楽しみ。