『魔眼の匣の殺人』(☆4.5) 著者:今村昌弘

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 その日、“魔眼の匣”を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた直後、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。
 ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ第二弾。

Amazonより

 『屍人荘の殺人』で○○○という斬新なクローズド・サークルを産み出した今村さんのシリーズ第2作。 前作同様にクローズド・サークル物に分類されると思いますが。前作の特殊な状況設定に比べると、村に通じる唯一の吊り橋が焼け落ちて孤立するといういう古典的な設定だと思います。
 むしろ前作の○○○に比するところといえば、いわゆる予知能力による殺人(?)予告というこれまた特殊な設定が挙げられます。
 いわゆるクローズド・サークルという状況の中で限定されるのは容疑者であるのがお約束ですが、その真偽が不明とはいえ死人がでるという予告によって被害者も限定されるという事が事件に大きな影響を与えるだろうということは想像にかたくありません。

 この特殊な状況設定は前作と似ていますが、前作がある意味設定に特化してミステリとして昇華していったのに対し、今作は全体としてアリバイ検証であったり物証から犯人を導き出していくロジックであったりと、前作以上にミステリとしての純度も上がってきてます。
 クローズド・サークルはいつか開かれるのになぜ殺人が起きるのか、なぜ取り残された人たちは相互監視を放棄するのか、といったミステリとしての定番ともいえる疑問に関してもきっちりと抑えており、人が死ぬたびに減っていく人形などはミステリファンなら思わずニヤリとしてしまいます。

 ただ、正直読んでて面白いものの予知能力という特殊設定部分についてどう処理をしていくのかというところがよめなかったのですが、物語が核心に近づくにつれてこの設定が絶妙に効いてきます。死人の数が予告される事によってフーダニットに加え、ホワイダニットが重要なキーポイントに。前作は設定の特殊性がクローズアップされたのに対し、この作品ではホワイダニットそのもが物語の主役になりそうなほどに狂気じみています。

 さらにホワイダニットの狂気は犯人が明らかになったあとも事件の霧を晴らすどころかさらに色濃くなっていきます。予知能力という特殊設定を論理的なロジックにまで引き寄せていたものが、むしろロジックが予知能力に引き寄せられる、ロジックが成立したまま世界が反転する。

 前作ではライトノベル調の比留子の設定が浮き気味なところもありましたが、2作目になってキャラとしてまとまってきたように思うし、ワトソン役としての葉村との微妙な関係は、ラストで予告される次の事件でどう変わっていくのかと楽しみにさせてくれます。

 また、登場人物一覧には葉村譲と剣崎比留子だけでなく、明智先輩の名前が。前作を読んだ人にとってはそれだけでグッとくるのではないでしょうか。(T_T)

 前代未聞の状況設定のもと破格のミステリとして高評価を得た前作だけに、続編へ掛かる期待も高かったわけですが、またしても破格のホワイダニットを産み出した快作(怪作?)として評価すべき小説だと思います。



採点  ☆4.5