『スイート・マイホーム』(☆3.6) 著者:神津凛子

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 長野の冬は長く厳しい。スポーツインストラクターの賢二は、一軒のモデルハウスに心を奪われる。「まほうの家」という売り文句がついたその家は、たった1台のエアコンで家中を同じ温度で暖めることができた。寒がりの妻と娘のためにも、真剣に購入を考え始める賢二だったが、実家のことが気にかかる。年老いた母と、引きこもりの兄。二人を古い実家に残し、新しい家を買っていいものか。意を決して母に相談するが、意外にもすんなり納得してくれた。

「いつも監視されているから、隠しておくのも大変なんだ」

 わけがわからない兄の言動は気になるものの、賢二は家を建てる決心をする。
 1年半後、新居は完成し、新しい家族も生まれた賢二は幸せの絶頂にいた。ところが、その家に引っ越した直後から奇妙な現象が起こり始める。我が家を凝視したまま動かない友人の子ども。赤ん坊の瞳に映るおそろしい影。地下室で何かに捕まり泣き叫ぶ娘――。想像を絶する恐怖の連鎖は、賢二の不倫相手など屋外へと波及していき、ついに関係者の一人が怪死を遂げる。
ひたひたと迫り来る悪夢が、賢二たち家族の心を蝕んでいく……。

 圧倒的な恐怖で選考委員を驚愕させた、「イヤミス」を超える、世にもおぞましい「オゾミス」誕生!

Amazonより

 強烈な帯の煽り文句に惹かれて読破。「オゾミス」の基準はよく分かりませんが、確かに「イヤミス」というより「オゾミス」の語感の方がピッタリな小説。

 新居を買うというのはワクワクするもので、それが一台のエアコンで家中が暖かいなんて冬が厳しいところでは主人公でなくても「まほうのいえ」って思いますよね。家は当然とんでもなく高い買い物で、何が起きても簡単には引っ越せないわけで。そんな場所でこんな事が起きたらほんと病むなという展開。

 主人公の賢二は子供がいながら浮気をしていて、浮気相手も賢二の家庭を壊す気もさらさらないどころか婚約者もいるという設定は若干都合良すぎという気もしますが、賢二がけっして家庭を顧みないタイプではないのは何となく伝わってきます。
 それは彼の実家が母子家庭でしかも兄が精神を患っているというの大きな影響があるような気がします。意味不明なことを言ったりときには暴れたりする兄を母に任せっきりにした結果実家から足が遠のいた賢二にとって帰るべき家族は大切な場所なんだろうと思います。まあ、それなら浮気するなって感じですし、悲劇の遠因にもなってしまうのはあれですが。

 全体としてはサスペンスより家族のあり方をモチーフにしたホラーに近いかな。先行作品で見たような設定が散見しますが、、おおよその筋立ては想像の範疇内なのに一気に読ませるだけの面白さはあると思います、作品全体の伏線や描写もクライマックスできちんと回収してるし、上手く本歌取りしており構成の妙を感じます。

 ただ、それだけの話だとそこまで印象に残らないというか、「オゾミス」というまではと思ったのですが、まさかの衝撃がラストに待ち構えています。いや、これは想像してなかったというか、因果応報、自業自得なのかもしれませんが、それでもものすごく後味が悪いです。

 帰るべき家がスイートマイホームであるためには、やっぱり火遊びはしてはいけませんな^^;;

採点  ☆3.6