『少女を殺す100の方法』(☆4.1) 著者:白井智之

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 白井さんは短編集に収録されていた作品しか読んでいないけど、とにかくグロというかなんというか独特の世界が印象に残ってましたが、今回の収録作もジャンルはバラエティに飛んでいるにも関わらず、どこを切り取っても白井さん、という作品ばかり。
 当然エログロ描写もしっかりあるのだけれど、どんなに作品がバラエティに富み、かつ過剰なまでに装飾されていても、根本のところはミステリの手順を踏んでいる。ときにアンチミステリともジョークともつかない展開を打ち込んでくるのにである意味油断は出来ない。
 物語のヴァリエーションは豊富でも、この作家の根本はミステリにあることを伺わせる異色の短編集。あとは勇気を持って手に取るだけ。


『少女教室』
 平日の教室で発見された20人の少女達の死体。すべての遺体は銃で撃たれ徹底的に破壊されていた。教師たちが事件を解決するまでのタイムリミットは数時間、しかものその理由がすう時間後に開催される入学説明会で真相を偽装するため、というとんでもない設定。しかも物語の途中で唐突に犯人の回想が挿入、それが終わると場面は再び現代に戻り、論理的な解明によりニセの真相が提示される。徹頭徹尾シュールすぎな展開にも関わらず、ミステリとして純度は高いという怪作。

『少女ミキサー』
 「少女教室」はありえない設定ながらそれでもギリギリ踏みとどまっていたけれど、早くもここでタガが外れてしまう。
 何しろ突然誘拐された少女たちは気がつくと透明のカプセルに放り込まれている。しかもカプセル内の人数が一定数に達するとカプセルの中の刃物が回転、まるでフードプロセッサーのように中の少女たちをみじん切りにする。
 誰が難のためにこんな事をするのか・・・は最後まで語られない。語られるのはそんな状況で起きたバラバラ事件の真相。
 事件が起きる前にすでに生きるための殺人が起きていて、その時点でモラルハザード、にも関わらずバラバラ殺人の動機である意味人間らしいところに物語が戻ってくる所が面白い。

『少女殺人事件』
 短編なのに作中作、それも犯人当てクイズ付き。いかにもミステリっぽさ全開なのに、解決編の内容はアンチミステリの極北。作中作とはいえ怪獣が暴れまくっていたり、アイドル研究会が作ったアイドルの名前が「おニャン子クラブ」だったりとおふざけ全開。そのなかでも一番ふざけているのが推理の過程。まさか、推理の王道消去法をこんな風に使うとは。あまりの馬鹿馬鹿しさゆえに、収録作中一番好きかも。

『少女ビデオ 公開版』
 人身売買先で壊れた少女の処理をする男の元に運んでこられた少女の姿は・・・。
 うん、これは生理的に一番しんどかった。モラルハザードの不快感とかスプラッタの恐怖を超越するグロさ。まあこの描写、世界観はいかにも白井さんだよな。それにしても壮絶にグロい展開をまさかそんなところに着地させるとは思いませんでした。多分収録作中一番賛否分かれる作品だと。

『少女が街に降ってくる』
 その街にはある決まった日に空から少女が降ってくる。その理由も正体も分からないまま、少女たちは墜落して死んでいく。ある日主人公ミロは落下したにも関わらず一命をとりとめた女を発見する。
 少女が降ってくるという設定はあるいはSFなのかもしれないけれど、相変わらずそれ自体の謎が解き明かされる訳ではない。ミロはあくまでも一命を取り留めた女性の存在、そして殺される動機も見当たらないのに起きた事件を問い詰めていく。終盤の畳み掛ける展開の伏線がちゃんと張ってある(なかなか気づかないとも思う)ところも含めて、収録作の中でも上位。
 
 
採点  ☆4.1