『誰も死なないミステリを君に』(☆3.2) 著者:井上悠宇

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 自殺、他殺、事故死など、寿命以外の“死”が見える志緒。彼女が悲しまぬよう、そんな死を回避させるのが僕の役目だった。ある日、志緒は秀桜高校文芸部の卒業生4人に同時に“死”の予兆を見た。“そして誰もいなくならない”ため、僕は4人を無人島に招待、安全なクローズド・サークルをつくった。だが、そこに高校時代の墜死事件が影を投げかけ、一人、また一人と―
 これは、二人にしかできない優しい世界の救い方。

Amazonより

 今年最後の小説です。

 まだ起きていない、起きるかもしれない連続殺人を止める。事件を未然に防ごうとするミステリはこれまでもあったと思うけど、その根拠が「死線」、具体的には寿命以外の死が迫っている人間の顔にモザイクが掛かってみえるというのは、あまりみかけないもの。
 また、この死線により予告された死は回避する方法があるということが前提。そうでなければ「ファイナル・ディスティネーション」みたいな単なる運命の死の物語になって、ミステリじゃなくなりますからね。

 そんな人の予定外の死が見える志緒と、彼女のその能力を信じ死を回避させるために奔走する「僕」。ライトノベル的な設定と描写が、人の死なないミステリをどう作り上げるのかが、この小説の肝。さらには死を回避させるために探偵側(?)がクローズド・サークルを作るといのうはさすがにあまり聞いたことがないような気がします。

 基本的な語り手は「僕」になります。ミステリ的に考えると裏を返せば本当に志緒に死線が見えているのか、本当に消えているのか、すべて志緒が正しい事を言っている前提になるということで、そこもまたこの小説のポイントでしょう。実際に起きる前の犯罪を未然に防ぐ、そして、「僕」と志緒の関係(いかに「僕」が彼女を信じられるか)という2つのテーマが、終盤色々な伏線の回収を経て上手く着地していると思います。

 ただ、途中経過的には物語を作るために設定を作りこみすぎて前半が単調になっているところと、一つ一つの決め台詞が少し物語から浮き気味かなというところは気になります。物語の結末に対して不要なエピソードは無いと思うので、もう少し一つ一つの場面を練り込んでもよかったのかなぁ。でもそれをすると、いわゆる読みやすさを犠牲にする気もするし、この小説、あるいは作者の立ち位置からして、どちらがいいとも言えないかもしれません。
 全体としてはあと一歩特殊な設定を活かしきれていないところはあるものの、構成の良さを感じさせてくれたと思います。
 

 
採点  ☆3.2