『死神刑事』(☆4.0) 著者:大倉崇裕

イメージ 1

 一年前に起きた『星乃洋太郎殺害事件』で、逮捕された容疑者に無罪判決が下された。時を同じくして、当事捜査に加わっていた大塚東警察署刑事課・大邊誠のもとに一人の男が現れる。男の名は、儀藤堅忍。警視庁内にある謎の部署でひとり、無罪確定と同時に事件の再捜査を始める男。警察組織の敗北を意味する無罪確定。再捜査はその傷を抉り出すことを意味した。儀藤の相棒になる者は組織から疎まれ、出世の道も閉ざされることになる。その為、儀籐に付いた渾名は〝死神″。大邊は、その相棒に選ばれ、否応無しに再捜査に加わることに――。 (「死神の目」より)

《逃げ得は許さない》――「福家警部補」シリーズで話題の著者が放つ、新感覚警察小説。
Amazonより

 大倉さんはこれまで色々なシリーズ探偵を生み出してきましたが、そこにまた一人魅力的な探偵が加わりました。未解決事件を調査する刑事、というのは過去にもあったと思いますが、今回の儀藤の場合は逮捕された容疑者が無罪になった事件の捜査をするために、事件に関係した警察官の前に登場します。
 起訴した事件が無罪になるという事はある意味逮捕した警察としては黒星、それをほじくり返す儀藤の存在は、ある意味鬱陶しい存在。それに関わる警察官も同じように見られる。「死神」という忌み名を持つ都市伝説です。

 ただ、それはあくまでも警察側の視点。相棒を命じられ戸惑う警察官達に彼は言います、「逃げ得は許さない」と。あくまでも彼が見つめるのは事件の真相であり、無罪の影に存在する被害者の存在。最初は自らの警察でのキャリアを心配する相棒を命じられた警察官達も、儀藤の揺るがぬ姿勢に少しずつ変わっていきます、そして事件が解決したとき彼らも読者も死神という忌み名のもう一つの意味に気づきます。

 とにかく主人公である儀藤が魅力的。小太りの冴えないルックスで飄々と行動するその姿は、「死神」というあだ名も相まってどこか喪黒福造を彷彿させてくれます。事件の関係者に聞き取りをする場面も、どこかとぼけていて愛嬌がありながらも事件の本質を鋭くついてくる姿は、大倉さんの敬愛するコロンボに共通するかもしれません。大倉さんの生み出した別シリーズの探偵福家さんも女性版コロンボ的存在ですし、そういった意味では十八番なんでしょうね。

 事件そのものはけっして意外性がある訳ではないですが、無罪の事件を調査する設定は十分に生かされています。同時に、事件ごとに変わる相棒へもスポットが当たります。最初は警察内での未来を失うと言われる死神の相棒に抜擢サれたことに愕然としながら、捜査を通じて自分と向き合い事件の解決と共に成長していく姿はなんとも微笑ましかったりします。

 死神という名前のイメージからは実は程遠い儀同のキャラクターはいい感じだし、シリーズ化してほしいなと思います。
 



 
採点  ☆4.0