『○○○○○○○○殺人事件』(☆4.0) 著者:早坂吝

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 アウトドアが趣味の公務員・沖らは、仮面の男・黒沼が所有する孤島での、夏休み恒例のオフ会へ。赤毛の女子高生が初参加するなか、孤島に着いた翌日、メンバーの二人が失踪、続いて殺人事件が。さらには意図不明の密室が連続し……。果たして犯人は? そしてこの作品のタイトルとは?
 「タイトル当て」でミステリランキングを席巻したネタバレ厳禁の第50回メフィスト賞受賞作

Amazonより

 タイトル伏せ字が一部で話題になった第50回メフィスト賞受賞作。調べてみると、メフィスト賞は第56回受賞作『コンビニなしでは生きられない』を読んで以来。この作品以前に受賞した作品で最後に読んだのが、第35回受賞作『天帝のはしたなき果実』だったということで、まほろの影響で読まなくなったのか??と一人悩む。

 それはともかくこの作品。いや〜〜〜好みが分かれそうですな、こりゃ。とにかくいろんなところでツッコめるというか、ツッコミどころしかないというか。主人公が「僕」から「俺」になる南国モードの設定。のちにシリーズ化される探偵上木らいちの設定。いくらなんでも変なとこに建て過ぎだろうという別荘、なぜか詳しく書かれる男性器の描写、事件の謎が解明されるとともに明らかになるオフ会メンバーの共通点・・・。

 どれもこれもその部分だけとったらなんだかな〜、時には下品なと言っちゃいそうですが、恐ろしいことにこの小説においてはそのツッコミどころの部分がすべてミステリ、あるいは小説としての素材として機能しているのです。
 
 それがもっとも端的に現れているのが、らいちが犯人を絞り込む場面。
 前段としてわざわざ神の視点が挿入される(この視点のために建物がその場所に建てられてるんだろうな)という念の入れよう。それが現実的がどうかは別にして作品の中の世界ではちゃんと推理として成立している。確かにそこにそれを入れたらそうはいっても目立ち過ぎるだろ、っていうか他に隠すところがあるんじゃねえか、とツッコんだらちゃんとその可能性も潰している。そしてその可能性を潰す過程の中で○○探偵というらいちの設定が活きてくる。ううむ、恐るべし。

 奇抜というより奇天烈ともいえるオフ会メンバー共通の趣味についても、ミステリとして成立させるために考えられた設定だとしても、実際にそんなオフ会はありそうだし、個人の趣味としてけっして非現実的ではない。ただ、可能性としては早々と消去・・・というより、最初っからまったく想像できないとは思いますけど。

 唯一犯人の動機や事件の発端となる失踪(駆け落ち?)であったりの部分は、ミステリの構造部分の凝りように比べたら弱さは残りますが、一方でラストの後日譚でなぜかほろ苦さまで感じさせてくれるのは、南国モードの設定があるからこそ。こんな特殊な設定じゃなかったら意外とこういうことはあるんじゃないかと思うし、根っこの部分は案外としっかりしてると思います。
 まあ、ようするに自分としてはかなり評価してる訳で、減点材料としてはタイトル当てのくだらなさというか、ちゃんとタイトルを公表してたらよりフェアなミステリだったと思う。でも、もしあのタイトルがちゃんと明記されてたら逆に手に取らんな^^;;;


 
採点  ☆4.0