『二千回の殺人』(☆3.4) 著者:石持浅海

イメージ 1

 不可抗力の事故で最愛の恋人を失った篠崎百代。彼女は復讐の為に、汐留のショッピングモールで無差別殺人を決意する。触れただけで死に至る最悪の生物兵器《カビ毒》を使い、殺戮をくりかえす百代。苦しみながら斃れていく者、逃げ惑う者、パニックがパニックを呼び、現場は地獄絵図と化す――。
 過去最大の密室で起こった、史上最凶の殺人劇。

Amazonより

 小説としての中身以前に、独特の倫理観に少しずつ違和感を感じ、いつの間にか読まなくなった石持さん。今作のような極端な設定だとどうなるのかと思い、手に取りました。

 うーむ、、、なんといっていいやら、、、。
 不慮の死を遂げたなき婚約者のために、化学兵器を使い汐留のショッピングモールで大量殺人を決行するヒロイン百代。この時点で、いろいろとツッコミたくなりますが、そもそもの発端となった婚約者の死にしても、集中豪雨による天災による不幸であって、ショッピングモールにも、そこに訪れる客にも一切責任が無いわけで、理解の範疇を超えております。

 何しろ百代が使うカビ毒が最強すぎ。体に触れても吸い込んでもとにかくあっというまに触れた所からカビが発生して死んじゃいます。更には付着したときにすぐに洗い流されないよう、あるいは予定外の行動をされないように、毒に唐辛子成分を混ぜて動きを止めるという徹底ぶり。その毒をいきなり子どもたちの休憩所から散布を始めてしまうという鬼畜っぷり。可愛い子供を殺せなくてどうして大量殺人ができるのか、という考え方がクズすぎです。

 作中では百代と亡き婚約者の友人でもあった協力者が、彼女の意思についてテロリストと同義であると評する場面があります。テロリズムというのは石持さんの小説の中でしばしば登場するテーマです。彼女が起こしているのは主義主張に囚われたテロとなどというものではなく、あくまでも復讐ではありますが、それにも関わらずその例えがしっくりくるのは、ある意味この以上すぎる設定が噛み合ったということでしょう。理解はまったくできませんけどね。

 むしろそれ以上に理解できないのは、百代の復讐劇に力を貸す協力者たちの存在です。百代や死んだ婚約者が通っていたコーヒーショップの常連たちは、彼女の想いを知り、生物兵器「毒カビ」の精製を指導したり、いかに効率よく大量殺人を実行したりと、彼女の復讐劇に重要な役割を果たしますが、どうして百代にそこまで協力しちゃうのか、止めてあげろよと思ってしまいます。
 物語が進むに連れ、協力者たちが彼女に力を貸した理由も少しずつ明らかになっていきますが、目的と手段にギャップがありすぎて、いくらなんでもそこまでリスクを背負っちゃうのかよ!!ということで、やっぱり心理的にいろいろと納得できないのはまったく変わらなかったですが、それでも何となく読めちゃうのは、作者の意図かどうかは別にして、ものすごくB級に振り切っちゃってるからかも。

 もう何も考えず、とても普通の女性だったと思えない百代の殺戮マシーンっぷりと、お約束のようにやられまくる警察や特殊部隊のあたふたぶりを楽しむ(不謹慎)しかないでしょうな。
 
 とりあえず、誰に勧めていいのやら分からない、超絶好みが分かれる小説ですな。


採点  ☆3.4