『沈黙のパレード』(☆4.2) 著者:東野圭吾

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 突然行方不明になった町の人気娘が、数年後に遺体となって発見された。容疑者は、かつて草薙が担当した少女殺害事件で無罪となった男。だが今回も証拠不十分で釈放されてしまう。さらにその男が堂々と遺族たちの前に現れたことで、町全体を憎悪と義憤の空気が覆う。
 秋祭りのパレード当日、復讐劇はいかにして遂げられたのか。殺害方法は?アリバイトリックは?超難問に突き当たった草薙は、アメリカ帰りの湯川に助けを求める。

Amazonより

 ガリレオシリーズ再始動ということで、長編としては『真夏の方程式』以来。今回は東京郊外の街が舞台。かつて行方不明になっていた街の人気者の少女の死体が遠く静岡で発見され、さらに事件の容疑者だった男が街に再び訪れる。男は草薙が担当した過去の事件の容疑者であり、当時も黙秘権の行使を武器に無罪を勝ち取っている。
 そんな不穏な空気が流れる街にある研究施設にたまたまアメリカ帰りの湯川が着任していたこともあり、事件の解明に協力することに。

 物語は現在の事件をベースに草薙やその相棒の内海の視点で描かれる捜査パートと、男が事件の犯人であると確信しながら不起訴になった事に対し怒りを募らせある計画を実行しようとする側(遺族であったり、彼女と縁のあった人々)のパートで構成されています。

 ある程度男を追い詰めようとする側が分かっている、一種の倒叙物ともいえる構成ですが、男への怒りを持つ人物が複数存在し、複数存在することにより事件の核心であろう部分をうまく省略して描かれているので、読み手として器(事件の骨格)は見えているのに、中身(事件の詳細)が分からない状態。
 このあたりはミステリとしてのリーダビリティとして優れていると思うし、倒叙物的要素がありながらこの事件はどこに落ち着くんだろうと思わせてくれます。

 ただ、現在の事件と23年前の事件を結ぶ線については、偶然という運命にしてもちょっと強引というか、なぜ2つの事件の関係者がそこまで信用できるのかというところは説得力が薄いです。また、現在パートだけとってみても、いくら男への恨みが深いとはいえ、そこまで一心同体になれるのかというのもやや附に落ちない。このあたりは東野ミステリでは時折みられる傾向だと思います。

 そうはいっても作品としてみれば、終盤に繰り返される構図の変化によって、倒叙形式パートを実はそのスタイルすらも物語として読ませる手段として活用していくあたりはさすがにベテランの上手さと思うし、事件の解明にあたり湯川が描き出したシナリオも、湯川の事件に対するスタンスと相まって思わぬ余韻を残します。

 そもそもこの事件に対して湯川は積極的に首を突っ込んできます。以前の湯川だと事件の不可思議性に興味を示し、その副産物として謎を解明するというパターン、キャラクターだったと思いますが、そのスタイルは湯川自身が今作の中で触れている通り、「容疑者Xの献身」以降少しずつ変化していっていると思います。「容疑者Xの献身」で湯川が解決した事により起こった悲劇が、湯川にとって決して小さくない傷を負わせており、それゆえに今回の事件で彼はこれまでと違ったスタンスで事件に関わっているような気がします。

 湯川自身の立ち振るまいは、ドラマで演じた福山雅治の影響も大きいと思います。ドラマ放送後その雰囲気は少しずつ作品に出てきてましたが、今作ではいきなりギターを弾いてみたりとあからさま(?)なシーンもあったりしますが、なんとなくアクセントになっててこれはこれでいい方向になったてるのかなと。

 発表される作品の平均値は高いけど、近年飛び抜けた作品に欠けていたように思ってましたが、久々の会心打というか、やっぱりガリレオシリーズの長編は面白いですね。
 

採点  ☆4.2