『下町ロケット ヤタガラス』(☆4.0) 著者:池井戸樹

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社長・佃航平の閃きにより、トランスミッションの開発に乗り出した佃製作所。果たしてその挑戦はうまくいくのか――。
ベンチャー企業「ギアゴースト」や、ライバル企業「ダイダロス」との“戦い"の行方は――。
帝国重工の財前道生が立ち上げた新たなプロジェクトとは一体――。
そして、実家の危機に直面した番頭・殿村直弘のその後は――。

大きな挫折を経験した者たちの熱き思いとプライドが大激突! 
準天頂衛星「ヤタガラス」が導く、壮大な物語の結末や如何に! ?

Amazonより

 「下町ロケット」シリーズ初の前後編もいよいよ完結。
 前作の「ゴースト」の最後で手痛い裏切りを食らった佃。本作ではいよいよ反撃にでます。

 これまでのシリーズの構成は、ほぼほぼ下町の町工場VS大企業(あるいは新興ベンチャー)だったのですが、今回はある企業と対決すためにかつて戦った帝国重工と手を組む場面も。
 このちょっとした変更がシリーズのたお約束パターンの中でちょっとしたアクセントになります。技術で評価されることを誇りとする佃が、かつて大企業の権力で中小企業を抑え込んでいた帝国重工の的場とどう向き合うのか。おたがいの立ち位置が微妙な中で駆引きというのは今までなかった展開だと思います。

 また、今回の「ゴースト」「ヤタガラス」では佃や製作所経理担当の殿村だけでなく、帝国重工で財前のライバルとなる的場や、競争企業の「ダイダロス」の重田や「ギアゴースト」の伊丹や島津といった相手側にもバックボーンがあります。

 銀行からの出向ながら佃とともに歩む決意をした人気キャラの殿村。本作では家業の農業を継ぐために佃製作所を去りましたが、物作りに対する佃譲りのプライドと信念は、慣れない農業と向き合う殿村にとって大きな力になっていたと思うし、殿村の父の美味しい米を作ることに対するぶれない信念も印象深かったです

 そしてこの物語の陰のヒロインとも言うべき天才エンジニア島津。前作のラストで印象的な姿を見せてくれましたが、今作でもかつて同じ志を持ち共に帝国重工をから独立した伊丹と訣別しながらも、物作りに対する火が消えない、姿勢がブレないその存在は単純にかっこいいし、彼女の存在が佃の決断に大きな影響を与えたと思います。

 力を持つものは持つものなりの考え方や想いがあり、それは企業という生き物の中で安易には否定できないな、と思います。ただ、どんな過去があるにせよ的場のやり方には全く賛同できませんが。

作品としては良くも悪くもパターンとして意外性には欠けますが、逆に言えば水戸黄門のようなキャラの際立ったマンネリズムとしての面白さは健在だなと思います。


採点  ☆4.0