『殺人鬼探偵の捏造美学』(☆3.2) 著者;御影瑛路

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 氷鉋清廉。警察も頼りにする精神科医にして、美学に満ちた殺人鬼・マスカレード。
 新米刑事の百合はマスカレードに殺されたかのような怪死体に遭遇するが、先輩刑事に紹介された捜査協力者は、あろうことか氷鉋だった!
 父親、婚約者、恋人の証言が食い違う、謎めいた被害者・妙高麗奈を、当の氷鉋と追う百合。だが、死んだはずの被害者の目撃証言があらわれ!?

Amazonより

 なんでこの本を手に取ったんでしょうか。もう理由は忘却の彼方です、年ですね。

 殺人鬼マスカレード、殺した遺体の顔の皮を剥ぎ身体の一部を持ち帰る連続殺人鬼。冒頭、殺人鬼マスカレードである精神科医・氷鉋清廉の語りから始まるこの作品。

 マスカレードの被害者と思われる死体、かつてマスカレードに妹を殺された新米刑事・百合はその死体に違和感を覚える。容疑者達の食い違う証言と死後に目撃された被害者、さらにはまったく写真が残っていない被害者奈の謎めいた過去と、ミステリのしての材料てんこ盛り。
 なにより、プロローグに続く第1話の副題が「Miss Direction(ミスディレクション)」としている所がミステリとしての本作の出来に作者が自身を持っている事を窺わせる。

 これまでにも殺人鬼が探偵を務める作品はあったし、その設定そのものは今の時代トリッキーというものじゃないと思う。それでもなお、真相が掴めたと思ったらひっくり返される意外性は楽しめる出来にはなっていると思うし、ほんとうにそれぐらいミスディレクションが散りばめられているのは間違いない。

 全体的に殺人鬼探偵やその助手、マスカレード逮捕に執念をみせる新人刑事の造形はライトノベル系ミステリのような描き方ではあるけれど、ミステリアス過ぎる被害者の非現実的な設定にはマッチしていると思うし、ミステリとしての構成はよく出来ているという印象。ラストの真相の部分では、ああなるほど〜と感心しました。

 ただ、ミステリ小説としてのプロットが良質な分、肉付けとしては今ひとつ。ミスディレクションは散りばめられているけれど、箇所によっては露骨にそれが浮き上がってる。特に最初のどんでん返しの部分の発端となる会話場面は、他のレビュアーさんも指摘している人がいたが、あまりに会話として不自然過ぎてミスディレクションに成り得ていない(私なんかは「変だな〜」と思ったけど、指摘される頃には会話の内容忘れてましたが^^;;)と思う。

 事件の真相が明らかになるに連れて、あまりに壮大な展開になっていくところなんかは、もうひと捻りないと非現実を小説内のリアルに感じるというところまでにはいかないかなとは思ったり。
 マスカレードである氷鉋清廉と新人刑事・百合のお互いへの感情の描写も、おそらくシリーズ化されるであろう(なにしろ「第1話」と副題に銘打ってるのに「第2話」が無いしね。)想定ではあるから明確にはしていないのかもしれないけど、一つの小説として読むとちょっとだけモヤモヤする。

 全体としては楽しく読ませていただいたので、ミステリ好きの方は手にとってもいいんではないでしょうか。ただ、最後で予告されている(?)今後の展開はあまり自分の好みにはなりそうにないなと思ってるんですけどね。



採点  ☆3.5