私には彼氏が2人いる──突然告白してきた暑苦しい同期のニと中学時代からの片思いの相手イチ。 「人生初告られた!」とテンションがあがるも、イマイチ、ニとの関係に乗り切れないヨシカ。一方で、「一目でいいから、今のイチに会って前のめりに死んでいこうと思ったんです」という奇妙な動機から、中学時代からひきずっていた片思いの相手・イチに会ってみようと、ありえない嘘をついて同窓会を計画。ついに再会の日が訪れるのだが・・・。 “脳内の片思い”と“リアルな恋愛”。同時進行で進むふたつの恋の行方は? * 監督・脚本 - 大九明子 * 原作 - 綿矢りさ『勝手にふるえてろ』 * 江藤 良香(ヨシカ):松岡茉優 * イチ(一宮):北村匠海 * ニ(霧島)渡辺大知 * 月島 来留美(くるみ):石橋杏奈 * 釣りおじさん:古舘寛治 * オカリナ:片桐はいり * 金髪店員:趣里 * 最寄り駅の駅員:前野朋哉 * 池田鉄洋 * 稲川実代子 * 柳俊太郎 * 山野海 * 梶原ひかり * 金井美樹 * 小林龍二
松岡茉優の松岡茉優による松岡茉優のための映画。映画というものは基本的に監督のものなんじゃないかと思っているけれど、この映画に関しては違いました。もう、松岡茉優をキャスティングした時点で成功が決まったといっても過言ではない、と個人的には思います。
自分の感情を全部言葉にしてしまうヨシカ。同僚やいつもオカリナを吹いている隣人だけでなく、カフェやコンビニの店員、マッサージ屋の従業員、駅員さんにバスの隣の席のおばさん、いつも河岸で釣りをしているおじさんに至るまで、その対象は留まることをしらない。さらには冴えない中学時代に恋をしたイチを妄想彼氏として10年もの間一途に想い続けてます。
うーむ、これだけみると非常にイタい人・・・というか実際にイタい部分もあるのだけれど、そのイタさはヨシカを通して自分に跳ね返ってくる。いや、跳ね返ってくるのはヨシカのイタさだけじゃなく、イチや二(霧島)の言動だったり、友人であるくるみのおせっかいであったり、映画にでてくるもの全てだったりする。
LINEを交換したいから、飲み会を企画して写メを取って・・なんて一度は経験して、いやしなくても妄想したことは大多数の人があるんじゃないか・・。映画の登場人物たちの行動一つ一つが自分の傷口に刺さってくるようで、観てて本当に切ない。二なんてあまりに自分をみてるようで痛々しくなった。。
それにしても松岡茉優はすごい。脳内世界の言語化というある種のファンタジー部分と、一方で日常生活でのリアルな会話の部分を軽々と行き来している。脳内妄想をマシンガンのように語り尽くしたと思ったら一瞬で日常のリズムに戻る。なんだろう、あまりに自然すぎて、まるでバラエティでモー娘。について語っている時の素の部分の松岡茉優と重なってしまって、素なのか演技なのかまったく分からなくなってくる。
人間なんて想像する生き物なんだよ、ヨシカはただそれがちょっとだけ過剰なだけなんだよ。だから、終盤の怒濤の展開の後、ヨシカがした選択。それをどう取るかは観客次第だと思うし、どういう感想を持ってもいいんだよと思う。
原作が未読なので映像化にあたって変わった所があるのかどうか分からないけれど、かりに変わった所があったとしても映画としてここまで突き刺さってくれば、そのへんはもう別に構わないよ。
とにかく映画人生のなかでも大切な作品の一つになりそうなこの映画と、完璧過ぎる松岡茉優に乾杯するしかない。