『マツリカ・マトリョシカ』(☆4.4) 著者:相沢沙呼

イメージ 1

柴山祐希、高校2年生。彼は学校の近くにある廃墟ビルに住んでいる、
謎の美女・マツリカさんに命じられて、学校の怪談を調査している。
ある日、偶然出会った一年生の女子から『開かずの扉の胡蝶さん』の怪談を耳にする。
密室状態の第一美術室で2年前に起きた、女の子が襲われるという事件。
解決されないまま時が過ぎ、柴山の目の前で開かずの扉が開くことになったが、
そこには制服を着せられたトルソーが、散らばる蝶の標本と共に転がっていた。
現場は誰も出入りできない密室という状況で再び起きた事件。柴山が犯人と疑われてしまう事態になってしまい……。
彼はクラスメイトと共に、過去の密室と現在の密室の謎に挑む!!

Amazonより

 謎のドS系クール美少女マツリカさんが、自らの下僕である柴山くんの学園でおきる事件の謎を解き明かすシリーズ第3弾にして、初の長編。

 過去の事件(謎)を通して少しずつ成長してきた柴山くん。いつもマツリカさんを頼るんじゃなく、少しでも自分の力で誰かを助けたいと頑張るわけで、でもそうするとマツリカさんの登場シーンが少なくなり、そうなるとマツリカさんと柴山くんの羨ましくなるような(嘘)痴女プレイが少なくなるわけで、それはそれで残念(笑)。

 今回は学園の開かずの扉と噂される部屋の扉の先で起きた「殺トルソー事件」(部屋の中では女性徒の制服を来たマネキンと、その直前に起きた制服盗難事件が2年前におきた傷害事件に結びつくという内容。制服盗難事件では、犯人容疑の汚名を着せられる柴山くん。まぁ、実際にマツリカさんの命令で制服が盗まれた女子テニス部の部室に忍び込んでるわけで疑われてもしょうがないんですが、無実は無実。さらに、今の柴山くんの周りには、これまでの事件を通して知り合った仲間がいます。

 今回初長編ということもあり、今までになかった多重推理が繰り広げられます。おおっと思うものもあれば、おいおい勢いだけだろうと千差万別。でもそれぞれの推理がなんとなくキャラクターになっててなんとなく楽しい。まぁ長編という括りなのでいきなり正解なんて無いわけですが、柴山くんの為に一生懸命推理してくれる仲間の姿に、彼の過ごしてきた時間が見えてくるのもいいですね。

 物語が進むに連れて、事件の火の粉はその友達達にも向かい始めます。以前の柴山くんだったら勇気が出ず見て見ぬふりをしてたかもしれませんが、今の柴山くんは大切な物を失うことの恐さ、寂しさと向き合う力を持っています。だからこそ、もう二度と何かを失いたくないという思いが彼を強く動かし、そして友達もまた動かしていくんだと思います。

 クライマックスの場面、たった一人で全てを背負い推理を披露しようとする柴山くんの為、まるで君は一人じゃないよと言わんばかりに彼のもとに登場する仲間たち。そして、最後の最後、いよいよ絶望的な状況に陥りそうになったおきに登場するマツリカさんの格好良さ。普通ならスルーしてしまいそうなちょっとした事柄から圧倒的な推理を展開、事件の犯人にキョーレツな一撃を見舞います。さすがマツリカさん、かっこ良すぎ、そしてやっぱり柴山くんがお気に入りなのね。

 このシリーズの良いところは謎も動機も等身大の所かなと思います。
 今回の事件についても、登場する色々な人の心の中にもつ密かな思いが事件を複雑化させてるし、調査の中で柴山くんの友人たちの秘密も明らかに成ったして、傷ついたり悩んだりしています。
 犯人の動機についても、そのやり方はさすがにしてはいけないと思うけど、事件を起こさざるを得なかった感情については多分理解できる部分もあるんじゃないかなぁ・・。そんな犯人の想いも弱さも最後にまるっと引き受けちゃう柴山くんの姿にほっこりです。

 あとは柴山くん、男しての勇気のマツリカさんに頑張って・・・いや、個人的には小西さんとの距離感もなんとなく気になるわけで、ううむ、早く続編読みたいなぁ。

 

採点  ☆4.4