邦画『ディストラクション・ベイビーズ』(2016 日本映画)

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愛媛県松山市西部の小さな港町・三津浜。海沿いの造船所にふたりきりで暮らす芦原泰良と弟の将太。喧嘩に明け暮れていた泰良は、ある日を境に三津浜から姿を消す―。松山の路地裏、強そうな相手を見つけては喧嘩を仕掛け、打ちのめされても食い下がる泰良。彼に興味をもった北原裕也が、「おもしろいことしようや」と声をかける。通行人をターゲットに無差別に暴行を加え、車を強奪したふたりは、乗り合わせていた少女・那奈と松山市外へ向かう。その頃、将太は、自分をおいて消えた兄を探しに市内へとやってきていた―。


* 監督 - 真利子哲也
* 脚本 - 真利子哲也喜安浩平
* 音楽 - 向井秀徳
* 主題歌 - 向井秀徳「約束」

* 柳楽優弥 - 芦原泰良
* 菅田将暉 - 北原裕也
* 小松菜奈 - 那奈
* 村上虹郎 - 芦原将太
* 北村匠海 - 健児
* 池松壮亮 - 三浦慎吾
* 三浦誠己 - 河野淳平
* でんでん - 近藤和雄


 暴力、暴力、また暴力。
 これがこの映画の全て。映画で繰り返される暴力に理由は無い。淡々とした日常の光景の中に突如異物のように現れる暴力の渦。笑いもドラマ性も意外性も何もない、ただただ街に響く暴力の音。音に重さがあるのがまた怖い。

 泰良の理由のない暴力を体現する柳楽優弥の存在感が強烈。暴力の理由、たとえば焦躁感だったり快楽だったり金だったり、何らかの理由が存在する暴力映画はあったが、ここまで暴力のバックボーンの無い存在というのは稀有ではないか。かといってホラーやサイコパスともまた違う、存在そのものが暴力である泰良、それを柳楽優弥が演じるだけで成立している。台詞よりもパンチの数が圧倒的には多いにも関わらずリアルな存在感を醸し出しているのまさに怪物だ。

 一方でそんな泰良に乗っかって暴力に走る北原や、万引きを繰り返し途中二人に監禁されるキャバ嬢の那奈の存在もまたリアルだ。

 強い相手に暴力を振るう泰良に対し、女性にしか暴力を振るわず、男が出てきたら泰良に相手させる北原のクズっぷり。自分で泰良に乗っかりながら、いざ危なくなるとビビって暴力を振るおうとする小物感。カッコいい役よりもこういうクズな役の方が菅田将暉の魅力が生きていると思う。

 途中監禁されながら、立場が逆転した途端に自分を追い詰めた北原をボコボコにし、最後は罪を押し付ける為に被害者として嘘の証言してしまう那奈。拉致監禁されている間に二人の狂気に感染したと思わせながら、一番人間らしいクズっぷりを見せてるのかもしれない。「渇き」でもそうだったけど、こういう役をやった時の小松菜奈のビジュアルは強烈。

 キャバクラ店員役の池松壮亮や泰良の父親役のでんでんなど、曲者俳優をチョイ役でつかっているのが贅沢。泰良の弟の将太(村上虹郎)がラストで見せた姿は救いなのか、それとも新たなモンスターの誕生なのか。
 最後の最後まで安易な救いなど設けない、語り口が強烈に印象に残る。好きか嫌いか絶対分かれるけど、自分は好きだわ、これ。