『君の膵臓を食べたい』(☆3.6) 著者:住野よる

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ある日、高校生の僕は病院で一冊の文庫本を拾う。タイトルは「共病文庫」。それはクラスメイトである山内桜良が綴った、秘密の日記帳だった。そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていて―。読後、きっとこのタイトルに涙する。「名前のない僕」と「日常のない彼女」が織りなす、大ベストセラー青春小説!

Amazonより

 なんだか今更という気がしないでもないですが、映画を観る前にやっぱり読んでみよう。

 自分の命の期限を知っている女の子と、彼女の命の期限を知ってしまった主人公が過ごした短い時間の物語。基本的にこの手の話には弱いです。その本の出来うんぬんに関係なく泣いてしまうので、学生時代周りからは「お前の涙は信用できない」と言われてました。

 主人公はクラスでも目立たない地味な存在。彼自身、人付き合いに意味を感じないクールな・・というかちょっぴりどうなのよと思う性格ゆえに、結果的に目立たない存在に落ち着いてます。
 一方で明るい屈託のない性格で性別問わず人気の高いヒロインの咲良。主人公をひたすら振り回し、時にはクラスの話題の的になっちゃっても気にしない、命の期限があるとは思えないほど生き生きとしてます。

 作中、主人公の少年は終盤まで明らかにされません。咲良やクラスメイトから呼ばれる場面、会話の中で名前の代わりに表記されるのは「秘密を知ってるクラスメイトくん」だったり「地味なクラスメイトくん」といった、おそらく主人公が自分と相手との距離感(関係性)を客観的に分析した、相手が思っている印象なんだろうと思う。
 なぜこういう書き方をされているか、それはおそらく他者との関わりを必要としない(と思っている)主人公にとって、最低限必要なのは無理やり入って来られない程度の距離感であり、相手の名前を覚える必要を感じていないから、という事なんだろうか。

 主人公は咲良のことも名前で呼ばない。病院で秘密を知った頃の彼女は主人公にとって「秘密を抱えたクラスメイト」でしかなかったから名前を呼ぶ必要も無かった。それでも彼のテリトリーに遠慮なく侵入してくる共有の秘密をもつ彼女は、他のクラスメイトと少し違う存在であり、だから「きみ」と呼ばれてたんだと思う。

 そんな対照的な二人の会話、過ごす時間は照れるぐらい甘酸っぱい。咲良の病気のことを含めて、遠慮の無い会話。病気なんて関係ないという強いタイプではないけれど、それでも前向きに生き生きと過ごしてるように見える咲良。そんな彼女と時間を過ごし少しずつ変わっていく主人公。
 咲良が亡くなるまでに一緒に過ごした僅かな時間、そこにあったのは恋かもしれない、友情かもしれない、あるいはそれとももっと違う、もしかしたら名前すらついてない何かかもしれない。それでも名前のない何かはそこにあって、主人公も、そして咲良にとっても忘れることの出来ないものだったんだろうと思います。

 咲良が死んだあと、主人公は彼女の遺した日記を通して、もう一度咲良との時間を、そして咲良との時間の中で変わっていた自分と向き合うことになります。
 二人が出会い、一緒に時間を過ごした時間、それは運命でも偶然でも無く、それぞれが行きていく中で選んだ無数の選択の結果、それを託され彼女の想いを受け取る役目に選ばれたのは必然だったと思います。

 咲良の死ぬ場面があれである必要があったのか、同じような小説(セカチューとかがすぐ思い浮かびますが)との差異というところで、書き手の企みが空回りしてるところもありましたが、結局読み終わった時は号泣してました。

 果たしてこの涙は信じられる涙なんでしょうか。。。


採点  ☆3.6