『犯罪者』(☆4.2) 著者:太田愛

イメージ 1イメージ 2


 白昼の駅前広場で4人が刺殺される通り魔事件が発生。犯人は逮捕されたが、ただひとり助かった青年・修司は搬送先の病院で奇妙な男から「逃げろ。あと10日生き延びれば助かる」と警告される。その直後、謎の暗殺者に襲撃される修司。なぜ自分は10日以内に殺されなければならないのか。はみだし刑事・相馬によって命を救われた修司は、相馬の友人で博覧強記の男・鑓水と3人で、暗殺者に追われながら事件の真相を追う。(上巻)

 修司と相馬、鑓水の3人は通り魔事件の裏に、巨大企業・タイタスと与党の重鎮政治家の存在を掴む。そこに浮かび上がる乳幼児の奇病。暗殺者の手が迫る中、3人は幾重にも絡んだ謎を解き、ついに事件の核心を握る人物「佐々木邦夫」にたどり着く。乳幼児たちの人生を破壊し、通り魔事件を起こした真の犯罪者は誰なのか。佐々木邦夫が企てた周到な犯罪と、その驚くべき目的を知った時、3人は一発逆転の賭けに打って出る。(下巻)

Amazonより

 初太田愛さん。ドラマ「相棒」の脚本家の一人でもあったんですね、なるほど。文庫の上下巻で約1000ページの大作ですが、読み進めるのに苦痛にはなりませんでした。

 無差別通り魔事件、謎のメッセージ、暗殺者の襲撃、奇病の裏に隠された食品汚染、政治の闇・・・色んなワードが散りばめられてますが、物語そのものはシンプル。何故通り魔事件が起きたのか、そして大手食品会社の闇を暴く、というのが大枠の基本線。色んな展開が起きても、柱のストーリーそのものは変わらないところが読みやすさの一つかもしれません。

 柱のストーリーが明確ということは、分かりやすさの反面、ストーリーの展開が想像しやすいというところもあると思います。そんな中でいかに読者の興味を繋げるかというところ、この部分が非常に上手いと思います。
 ミステリというよりサスペンス、あるいはクライムノベルといった展開は、物語が横に広がっていくというよりはゴール地点に向かっていろいろな事が重層的に重なり合っていきます。目的地は同じなのに何度も強制的に道を変えられてしまう感覚、少しずつ色んな情報が出てきて、それが新たな謎を生んで、次の展開に期待を持たせてくれてます。この引っ張りの上手さはほんとに連続ドラマの感覚ですね

 暗殺者まで登場する展開にどこまでリアリティを感じるのは人それぞれ、でもノンフィクションじゃなくてフィクションなので最低限物語の中で伝わるリアリティがあれば楽しめるというか。
 修司たちだけじゃなく、相手の企業・政治家側も含めて、情報戦、逃走劇、駆け引き、逆襲と、それぞれ立場と状況が違う中での事件に巻き込まれ、はまり込んでいくドロドロ感と疾走感。細かい事は考えずにフィクションの世界を愉しめばいいのです。 

 物語を支えるキャラクター達。主役級である修司、相馬、鑓水のキャラや人間性はちょっとカッコよく作りすぎのような気もするけど、それぞれの想いを持って事件に関わっていく姿は熱いです。他の登場人物、彼らに味方する側も敵対する側も、それぞれの理由を持って行動します。中には純粋な正義感もあれば出世欲もある、自らの保身もあれば企業への忠誠心まで・・・。

 なかには普通だったらチョットでたらサヨウナラしちゃうようなキャラクターにページを割いたり、上巻ではキーを握りそうな存在だったのに下巻になって一気に出番が無くなっちゃうようなキャラもいましたが、概ね物語の中で意味のあるキャラばかりだったと思います。
 読み手としてはどうしても修司側に肩入れして読んでしまいますが、むしろ企業側の論理のほうがリアリティがあるのかもしれません。

 エンディングで通り魔事件の被害者家族が今の想いを語る場面、修司達の事件の旅は終わっても、被害者家族の旅はまだまだ続く。彼らからしたら誰が犯罪者であるかが問題ではなく、なぜ家族を失わなければいけなかったというのが本当の叫びであり、その中では修司達の側もまた単純な正義のヒーローで無いことを突きつけられます。
 また事件の発端となったメルトフェイス症候群、架空の病気ながらその症状や事件をうけて激変していく家族の環境、彼らを見るマスコミやネットの反応も現実に多分繰り返されてることなんだろうなと。

 脚本家でもある経験が生きたスピード感溢れるサスペンス。素材としては連続ドラマ向きだと思いますが、病気の症状的に難しいかなぁ。。。、

 


採点  ☆4.2