邦画『花戦さ』(2017 日本)

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 織田信長が本能寺で倒れ、天下人が豊臣秀吉へと引き継がれた16世紀後半。戦乱の時代は終わりを告げようとしていたが、秀吉による圧政は次第に人々を苦しめていた。そんな中、町衆の先頭に立った花僧の池坊専好は、花の美しさを武器に秀吉に戦いを挑んでいった。
* 監督 - 篠原哲雄
* 脚本 - 森下佳子
* 音楽 - 久石譲

* 池坊専好 - 野村萬斎
* 豊臣秀吉 - 市川猿之助
* 織田信長 - 中井貴一
* 前田利家 - 佐々木蔵之介
* 千利休 - 佐藤浩市
* 吉右衛門高橋克実
* 池坊専伯 - 山内圭哉
* 池坊専武 - 和田正人
* れん - 森川葵
* 石田三成 - 吉田栄作
* 浄椿尼 - 竹下景子
* 俵屋留吉- 河原健二

 華道を武器とし、当時の最大権力者である豊臣秀吉に対抗する男・池坊専好の物語。

 この映画のある意味主役である「生け花」。普段見かけてもあまり良し悪しは分からないけれど、この映画の生け花はなんか美しい。それぞれの作品に意味を持たせているからかもしれないが、それを活けた時の専好の心情が表れているようで素晴らしと思うし、同じ小道具として何度か登場する絵の使い方も効いてる。
 歴史上の人物よりも無名の町衆生き生きとした姿が印象に残るし、その場面を見せることによってクライマックス前の主要キャラたちの意外な展開、クライマックスでの専攻の花に込めた思いもよく伝わってくる。

 それだけに役者の演技というよりも演出にもったいなさを感じた。

 主役の萬斎さんは好きな役者さん。独特の台詞回し、動きの靭やかさと無駄の無さ、眼力・・・その個性はある意味唯一無二。
 元々が狂言師だからなのか、どこか人を食ったようなおかしみのある役柄が多い。「のぼうの城」もそうだし、本作の池坊専好もまた、華道家としての天衣無縫の才能を持ちながら、とにかく人の名前を覚えられず、流派の上にたっても弟子や友人たちにからかわれる、天然で愛される役。
 
 ただ、個人的に萬斎さんの魅力は、おかしみの間から悲しみや怒りなどの感情をふっと覗かせるところにあると思う。初めて観てファンになった、大河ドラマ花の乱」やブレイクのきっかけになった朝ドラ「あぐり」のエイスケさんもそんなキャラだったと思う。

 それに較べると、今作の池坊専好は天然で純粋過ぎる。特に前半は良い人すぎて、持ち味のおかしみのある演技が個性を通り越して過剰に見えてしまう。「のぼうの城」での成田長親もそれに近かったけれど、今作はそれ以上に思う。
 逆に覚悟を決めて秀吉に華道で挑む場面の静かな迫力は、萬斎の魅力が最大限に発揮されていると思った。

 前半の軽みの部分に拘るのであれば、もっとナチュラル系の芝居をする役者さんでもよかったと思ってしまうし、せっかく萬斎さんを使うのであれば、もっと前半から天然だけでないプラスアルファを役の設定に加えてもよかったと思う。

 逆に豊臣秀吉役の四代目市川猿之助千利休役の佐藤浩市の迫力、目の芝居は序盤から神がかってる。かつての竹馬の友から、今ではお互いにすれ違う存在になってしまっている二人。茶道の道を通して秀吉に自らの思いを伝えようとする利休、利休の想いを感じることが出来ず逆に疎ましくおもう秀吉。それぞれの立場でぶつかり合う二人の姿、直接対決の場面の緊迫感はこれぞ映画の醍醐味といった感じ。特に目で語る猿之助の芝居は、彼の映像出演作品の中でも一番演技と言ってもいいんじゃないかと言うぐらいの快演である。

 キャスティングも小道具も撮影もそれぞれに良いんだけど、終わってみるともう一つ良い作品になりきれなかった映画なのかなぁ・・・。