『マツリカ・マハリタ』(☆4.4) 著者:相沢沙呼

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 柴山祐希、高校二年生。彼には、人に言えない秘密がある。実は、学校の近くにある廃墟ビルに住み、望遠鏡で学校を観察している美少女・マツリカさんに命じられて、学校の怪談を調べていた。
 新学期を迎え、なかなかクラスになじめない柴山の下に、『一年生のりかこさん』の怪談話が舞い込んでくる。一年生の時に自殺をした彼女は、学校に未練を残していて、ときどき霊になって現れるらしい。その真実を突き止めるため、捜査を開始した柴山だったが、調べていくうちに…!?平凡な男子高校生と、廃墟に住む謎の変人美少女が織り成す、妄想と青春の学園ミステリ!!


Amazonより

 謎のドS系クール美少女マツリカさんが、語り手である柴山くんの学園でおきる、ちょっと不思議な事件の謎を紐解いていくシリーズ第二弾。

 廃墟に住まうマツリカさん。服装的挑発は1作目に比べ控えめながら、逆セクハラじゃねえかという挑発っぷりはグレードアップ。
 柴山くんにクリームのついた指を舐めさせようとしたり、挙句には足で踏みつけたりと、もうそこだけ見ると別のジャンルです。踏まれて、「あれ、気持ちいいかも」と感じ、マツリカさんのどんな挑発にも最後は耐え切る柴山くん、やっぱり素質がありそう、、、。
 マツリカさんと柴山くんだけでなく、写真部の先輩・後輩や、写真屋に勤める学校のOBの女性たちなど、前作以上にそれぞれに魅力的なキャラたちも登場して、シリーズものとして確実に前作より面白くなってます。

 そんな中、安楽椅子探偵役であるマツリカさんの推理は、あくまでも推測であり、前作ではその実証はあまりされませんでした。普通に考えたら高校生なんだから当たり前なんですけど、今作はそこから1歩踏み込んで、マツリカさんの推理が正しいのかの実証があります。

 なぜ今作はそこに踏み込んできたのか。そこには語り手兼助手(下僕)柴山くんの成長が外せません。様々な事情があり、人と接する事が苦手だった柴山くんは、前作でマツリカさんあと出会った事で、少しずつ前に進むキッカケを手にいれました。その中にはつらい事もあったけれど、少しずつ殻を破ってきた柴山くんはこの作品でさらに一歩前に進んでいきます。

 マツリカさんのだした答えは決して優しいものだけじゃないです。それでもそれぞれの謎に関わるそれぞれの人の想いを汲み取り、傷つくかもしれないけれど、その答えを確かめに行く姿は、彼が一人の世界からマツリカさんをはじめ、少しずつ色々な人と出会いったことによって得ることが出来た強さの証だと思います。

 悩んだり成長したりはある意味成長の特権。それは柴山くんだけじゃなく、彼を取り巻く学園の仲間たちも一緒。学園で起こるちょっとした謎の裏には、誰にも見せることなかった、見せたくなかった思いがある。それを心から引っ張り出す勇気を持つことによって、傷つきながらも成長する。

 そして最後に待ち構えるマツリカさん自身の物語。前作の最後に収録された柴山くん自身の物語によって彼が一歩を踏み出したように、最後の物語を通してマツリカさんもまた何か変わっていくのかもしれません。

 今作でもその正体がはっきりとはしなかったマツリカさん。いわゆる日常の謎系に分類されるタイプの青春ミステリの中でその存在は異質ともいえるのに、一人の少年の成長譚として足のついた物語となってます。

 ああ、次の第3作も青春とエロスの爆発を期待したい・・・。
 
 

採点  ☆4.4