運行しているはずのない深夜バスに乗った男は、摩訶不思議な光景に遭遇した―奇妙な謎とその鮮やかな解決を描く表題作、女子中学生の淡い恋と不安の日々が意外な展開を辿る「猫矢来」、“読者への挑戦”を付したストレートな犯人当て「ミッシング・リング」、怪奇小説と謎解きを融合させた圧巻の一編「九人病」、アリバイ・トリックを用意して殺人を実行したミステリ作家の涙ぐましい奮闘劇「特急富士」。 あの手この手で謎解きのおもしろさを伝える、著者再デビューを飾る“ミステリ・ショーケース”。 Amazonより
新年1作目は、2018年版「本ミス9位」の本書。再デビューってなんだ、と思って著者の経歴をググる。公募の「新・本格推理」に何篇か掲載されたのち、2007年にデビューしてから沈黙と・・・って、全部本書の裏の著者紹介に書いてありました^^;;再デビューの基準がよく分かりませんが、個人としては著者の作品は短・長編をあわせても初。
表題作が入選したのが2003年、その他2005年の入選作「九人病」に書き下ろし3作を含んだ5本の短編から構成。それぞれの書かれた時期は10年以上開いていますが、それぞれにバラエティに富んでいて、全部になんとなくの著者の色が感じられました。
「Y駅発深夜バス」
飲み会の後、たまたま乗った深夜バスで見かけた不思議な光景。はたしてその光景はなんだったのか。その意味が明らかになる時、物語は意外な方向に、という2部構成。
謎を扱った前半の第1部がちょっと古めかしい都市型ホラーテイストなら、後半の第2部は完全に謎解きミステリ。前半ホラーテイストの部分については、生気を感じさせない乗客や待合室の異様な光景など、怪談の王道で意外性はないけれど、描写のツボは押さえます。その分、後半の謎解き編で明らかになる、前半で観ていたものの意味が分かるところなんかは気持ちよく納得できます。
仕掛けそのものが現実的かどうかは難しいところですが、不確定要素も含めて検討されているということを考慮すると、手堅い出来。
飲み会の後、たまたま乗った深夜バスで見かけた不思議な光景。はたしてその光景はなんだったのか。その意味が明らかになる時、物語は意外な方向に、という2部構成。
謎を扱った前半の第1部がちょっと古めかしい都市型ホラーテイストなら、後半の第2部は完全に謎解きミステリ。前半ホラーテイストの部分については、生気を感じさせない乗客や待合室の異様な光景など、怪談の王道で意外性はないけれど、描写のツボは押さえます。その分、後半の謎解き編で明らかになる、前半で観ていたものの意味が分かるところなんかは気持ちよく納得できます。
仕掛けそのものが現実的かどうかは難しいところですが、不確定要素も含めて検討されているということを考慮すると、手堅い出来。
「猫矢来」
中学生を主人公にした、青春ミステリという事で、酔っ払ったサラリーマンが語りでだった表題作といきなりテイストが違います。書き下ろしという事で、LINEが登場したりと今の時代の物語ですが、こっちのほうが得意なジャンルと言ってもいいぐらい違和感がないですね〜。
ただ、淡い恋の始まりからスタートした物語は、後半一気に雰囲気が変わります。小説の中でさり気なく書かれていた事が、意味を持ち出した時明らかになる真実は少しほろ苦いです。それでも後味がけっして悪くないのは、主人公の年齢設定のおかげだったのかな、と思います。
中学生を主人公にした、青春ミステリという事で、酔っ払ったサラリーマンが語りでだった表題作といきなりテイストが違います。書き下ろしという事で、LINEが登場したりと今の時代の物語ですが、こっちのほうが得意なジャンルと言ってもいいぐらい違和感がないですね〜。
ただ、淡い恋の始まりからスタートした物語は、後半一気に雰囲気が変わります。小説の中でさり気なく書かれていた事が、意味を持ち出した時明らかになる真実は少しほろ苦いです。それでも後味がけっして悪くないのは、主人公の年齢設定のおかげだったのかな、と思います。
「ミッシング・リング」
収録作数年ぶりに集まった大学時代の友人たち。そこで起きた一つの事件の意外な真相は。
最初に見取り図が掲載されてたり、細かく現在時刻が明示され、最後には読者への挑戦状まで登場して、収録作随一のガチガチな本格ミステリ。たったひとつの事件、それも限られた短時間で起きた出来事にも関わらず、二転三転する真相とアリバイ表の美しさ。読み終わって、このタイトルが実は素晴らしいことにも気付かされました。
収録作数年ぶりに集まった大学時代の友人たち。そこで起きた一つの事件の意外な真相は。
最初に見取り図が掲載されてたり、細かく現在時刻が明示され、最後には読者への挑戦状まで登場して、収録作随一のガチガチな本格ミステリ。たったひとつの事件、それも限られた短時間で起きた出来事にも関わらず、二転三転する真相とアリバイ表の美しさ。読み終わって、このタイトルが実は素晴らしいことにも気付かされました。
『九人病』
旅行ライターが湯宿で相部屋になった男から聞いたのは、とある村で繰り返し起きる謎の感染病の噂。一度に掛かると九人目が死ぬまで致死率100%の奇病が猛威を振るうという・・・。
これまたテイストが変わって、民俗ホラー系の物語。感染すると本人が気づかぬうちに体がバラバラになり、しかも9人まで(しか)感染するというところは、いかにも噂の色が濃い伝承系ホラー。そのテイストを崩さずミステリの要素をきちんと取り込んでいる。論理的推理とオチが付いたところで、さらに物語の空気を変えてくるところは収録作の中で一番の出来だと思います。
旅行ライターが湯宿で相部屋になった男から聞いたのは、とある村で繰り返し起きる謎の感染病の噂。一度に掛かると九人目が死ぬまで致死率100%の奇病が猛威を振るうという・・・。
これまたテイストが変わって、民俗ホラー系の物語。感染すると本人が気づかぬうちに体がバラバラになり、しかも9人まで(しか)感染するというところは、いかにも噂の色が濃い伝承系ホラー。そのテイストを崩さずミステリの要素をきちんと取り込んでいる。論理的推理とオチが付いたところで、さらに物語の空気を変えてくるところは収録作の中で一番の出来だと思います。
『特急富士』
疎ましくなった愛人を殺害するために得意の時刻表トリックを考案した推理作家。いよいよ実行に移すが、トラブルが重なり・・・。
タイトルからして往年の鮎川哲也のアリバイ物の短編を彷彿させますが、犯人視点の倒叙物ということもあって、どちらかという刑事コロンボ。さらにはアリバイトリックを巡って右往左往するユーモアテイストは、古畑任三郎の方が近いのかも。アリバイトリック自体もかなり細かく描かれていて、そっちが好きな人も楽しく読めるかも。
疎ましくなった愛人を殺害するために得意の時刻表トリックを考案した推理作家。いよいよ実行に移すが、トラブルが重なり・・・。
タイトルからして往年の鮎川哲也のアリバイ物の短編を彷彿させますが、犯人視点の倒叙物ということもあって、どちらかという刑事コロンボ。さらにはアリバイトリックを巡って右往左往するユーモアテイストは、古畑任三郎の方が近いのかも。アリバイトリック自体もかなり細かく描かれていて、そっちが好きな人も楽しく読めるかも。
全編通じて、派手さはないです。けれど面白くないかというと全然そんなことはない。ミステリに求められるであろうツボを押さえながら、これだけバラエティに富んだ短編集に仕上げているのはすごいと思う。これからガチガチの本格を書いてみよう、という人がいたらいい教材になるのでは。
まだまだ未収録の短編があるということなので、さらに書き下ろしして頂き、再々デビューということにならないようお願いします。
まだまだ未収録の短編があるということなので、さらに書き下ろしして頂き、再々デビューということにならないようお願いします。
採点 | ☆3.7 |