『紅城奇譚』(☆3.0) 著者:鳥飼否宇

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奇想、天を焦がし、城を堕とす。

ときは戦国。九州に、謎と血にまみれた城があった――。

 織田信長が天下統一をもくろみ、各地の戦国大名を次々と征伐していた16世紀中頃。九州は大友、龍造寺、島津の三氏鼎立状態となっていた。そんななか、三氏も手を出せない国ーー勇猛果敢で「鬼」と恐れられた鷹生氏一族の支配地域があった。その居城、血のように燃える色をした紅城で、次々と起こる摩訶不思議な事件。消えた正室の首、忽然と現れた毒盃、殺戮を繰り返す悪魔の矢、そして天守の密室……。
 眉目秀麗な、鷹生氏の腹心・弓削月之丞が真相解明に挑む!

Amazonより

 鳥飼否宇さんの作品は今回が初めて。鳥飼さんも時代物は初めてなので、これも縁でしょうか(何の?)。
 全体で序破急の三部構成。序は前段、急は後日譚のような感じなので、メインは破。序で戦国時代とは謀略と裏切り、殺戮の世界ですと説明。破で語られる謎はそれが前提になってますよとお知らせ。

 メインである破の物語は4部構成。
 一話目の「妻妾の策略」では、城主鷹生龍政の正妻が首を斬られた死体で発見され、その直後妾のうちの一人がまるで自害するかのように月見櫓から転落する。
 二話目の「暴君の毒死」では、城主の弟が宴会の席で毒殺されるが、動機のありそうな容疑者がいるにも関わらず、誰も犯行が不可能な状況だった。
 3話目、「一族の非業」では弓比べ中に龍政の父、そしてその後龍政の嫡男も同じ矢で殺されてしまう。
 最終話、「天守の密室」では精神に異常をきたし始めた龍政が密室状態の天守の最上階で発見されてしまう。

 とにかく城主の龍政が色を好む短気な暴君であり、少しでも何か粗相があれば平然と処罰(基本殺される)を下してしまうので、現代でいうところの探偵役である弓削月之丞も大変。ちょとでも真相を解き明かすのに時間が掛かれば城主の癇癪が爆発するので、証拠をもとに論理的に解明することよりも、いかに龍政が納得するかどうかが大事。

 但し、どうみても無理があるだろう推論でも、龍政が納得すれば例え犯人じゃなくても、先走ってお手打ちしちゃうから迂闊なことは言えません。現代のミステリ物でいえば、推理の過程で間違っていてもせいぜい真相が分かるまで相手が牢屋にぶち込まれるだけですが、舞台設定が戦国時代なのでそんなムチャもまかり通ります。

 そして、そんなムチャがまかり通るからこそ恨みも募る。恨みも募れば復讐もあり。下克上が当たり前の時代、積年の恨みなんとやらもこの小説のキーワード。龍政があまりに御無体なので、恨む人は数知れず。一つ一つの事件は独立しているものの、破のパート全体に流れるなんとも言えない悪意の方が、事件そのものもよりも怖いです。

 ミステリとして見た場合、やや無理があるかなという部分があるのですが、その中では「暴君の毒死」は物理トリックと、それを成立するため心理トリックの作り込みが噛み合って収録作の中では随一だと思います。
 逆に「天守の密室」は、あまりに強烈なトリックゆえに好きな人は好きだろうし、逆にいくらなんでもやり過ぎだろと思う人もたくさんいるでしょうね〜。

 作品全体としては、この時代設定だからこそリアルな動機設定と手段という点では有り。急で明らかになった悪意の源流が、かなり早い段階で明らかにしていたことにはビックリ。但し、分量の問題なのか、肝心の悪意の部分にもう少し突っ込んでもらったらよかったかな〜。そういう意味では惜しいし、物足りなさが残りました。 



採点  ☆3.0