『ネメシスの契約』(☆2.6)  著者:吉田 恭教

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義憤の女神は、パンドラの箱に手を掛けた――

実父の犯した殺人事件を追う記者。医療ミス疑惑の調査から連続殺人に気付いた厚労省職員。立ちはだかる闇の向こうに二人が見たものは――
緻密に絡みあうトリックに驚嘆必至! ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作受賞後第1作。

Amazonより

 一本釣り漁師をしながら、「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」優秀賞受賞という経歴が気になる受賞後第1作。主人公がデビュー作「変若水」と同じなのはちょっと意外。

 それまで元気だった息子が入院中突然死、医療ミスではないかという家族の依頼を受け調査を開始した厚労省職員・向井俊介。DVの末逮捕され、出所後有罪判決を下した判事の首を切り殺害し自殺した男。息子は父親の名誉を晴らすべく・・ではなく、自分が犯罪者であることを証明したい新聞記者の息子・周防正孝。人権派弁護士の長男誘拐殺人事件の犯人を追う副島佳苗たち刑事たち。

 誘拐した子どもを殺す場面をDVDで親に送りつけたり、夜釣り中に首を切断されたり、さらには大病院の病室や映画館での突然死。前作も病死にしか見えない死体の謎だったり、あるいは寒村の因習に纏わる陰惨な事件だったりと、複数のサスペンス要素を絡み合わせてくるのがこの人の作風の特徴なのかなと思うのですが、この作品に関していえば序盤から盛り過ぎかなぁ、という印象。

 それぞれのストーリーに出てくる人物や、ストーリーの内容が序盤からリンクする場面もあるので、なんとなくどのパートで誰のどんな話が出てたのかがごちゃごちゃになってきて、何度か読み返しました。それぞれのパートの話自体はそれぞれの面白さがあるけれど、それがなかなか活かされていない感じでしょうか。後半、それぞれのエピソードが一つになっていきますが、その部分での読み応えに欠けるのは、材料の盛り方・調理の仕方が雑だったのかなぁと思います。

 小説の構成として、「〜はおかしい、〜に違いない」という基準がイマイチはっきりしないのも気になります。特に事件を動かす事になる前作からの主人公・俊介の思考に顕著。序盤2つの不審死が重なった段階で「おかしい。これは明らかに殺人だ」、もう一つの死についても「おかしい。殺人に違いない」と確信します。
 前作でもその傾向はあったけれど、その時はそもそもの被害者が俊介の幼馴染だという事で、彼の想いの裏付けが成立していましたが、今回の発想の飛躍は超探偵並みになってます。

 終盤になっても、証拠からの推理というよりは、発想に現実を合わせましたという印象が目立ちました。元々物理トリック的にはかなり理系な部分なので完璧に推理することは困難。なので、なおさら「〜だから、出来たはずです」「〜なので、そんなに難しくなかったはずです」という部分にもっと納得できるものを見せて欲しかった。その味付けが合ってこそ、最終盤のエピソードも活きてくると思うのです。それぞれの素材は良いものの、それを盛り付けただけじゃ面白くならないよ、というところでしょうか。



採点  ☆2.6