『QED ~ortus~白山の頻闇』(☆2.8) 著者;高田崇史

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棚橋奈々は妹・沙織の新居を訪れるべく、桑原崇と金沢へ向かっていた。白山神社総本宮白山ひめ神社を参拝した二人は、殺人事件に巻き込まれる。手取川で見つかった首なし死体、上流で昏倒していた男、現場から走り去った女。すべてがひとつに繋がるとき、白山の謎も明らかに!
大学一年生の奈々が吉原を訪れ、崇の博覧強記ぶりを目の当たりにする「江戸の弥生闇」も収録。書き下ろし最新作!

Amazonより

 QEDシリーズ復活第2弾は中編を二編収録。最初の表題作「白山の頻闇」は1作目からの時間軸の延長の物語。もう一つの「江戸の弥生闇」はタタルと奈々が大学生の頃のお話。

 表題作の「白山の頻闇」。妹の沙織の結婚後の新居に遊びに行くため、タタルと共に金沢を訪れた奈々は、その巻き込まれ体質のせいかまたしても事件に巻き込まれます。
 前作では天照大神素盞嗚命とならぶ三貴人でありながら神話に殆ど登場しない月読命が物語の中心でしたが、今作ではさらにマイナーであろう白山比咩神社祭神の菊理媛神が主題。旧シリーズ(?)では同じ神やテーマが繰り返し取り上げられてましたが、シリーズが再開してからはそれまで取り上げられる機会の少なかった神様に焦点が当たっているような気がします。

 そうはいっても菊理媛神、一般的にはどこで登場したどういう神という話だと思います。それもそのはず。この菊理媛神は「古事記」には一切登場せず、「日本書紀」でも黄泉比良坂でのイザナギイザナミで対峙した時、突然その姿をあらわし、何事かを一言残して再び去っていった後、一切記述のない存在。
 
 今古事記がどれだけ読まれているか不明ですが、決して多い数字ではないと思います。それが日本書紀になるとその数はまたグッと減るでしょうし、本当に初めて名前を聞く人も多いでしょう。そんなほとんどその正体についての言及されていない菊理媛神は、黄泉比良坂でイザナギイザナミに何を語ったのか、またほとんどその正体が明らかになってないにも関わらず、白山比咩神社を頂点とする白山神社系の社の数は何故3000以上も存在するのか、そしてそもそも菊理媛神とは一体何物なのか・・・。

 物語の主流であるこの神話の謎について、タタルさんはある一つの回答を導きだします。その回答が一般的なものなのか、それともタタルさん(高田さん)が生み出した論理なのかはわかりませんが、個人的には「ほほう」と納得してしまいました。
 中編というよりも短編に近い分量なので、薀蓄の量が覚えきれないという程では無かったのも幸いしたのかもしれませんが「白」という漢字そして、「はくさん」と「しら(ろ
やま」という二つの呼び方から想像を張り巡らせ、さらには白山信仰を通して黄泉比良坂の場面を別の角度から観察することにより、ある一つの大胆な仮説に辿り着きます。その道筋の構成は近年の作品の中では一番自然に感じたし、個人的にもほうほうと思える出来栄えでした。

 一方で実際に起こる事件の方。並列に並べる必要があるのかという強引に事件と歴史(神話)を結びつけてくるのはこのシリーズのお約束ですが、今作もまた然り。動機という面では結びつきは感じられるんですが、それでこんな事するんかい、というツッコミはもう必要ないのか。しかも今回は奈々の妹・沙織の結婚相手が事件に巻き込まれているにも関わらずどこ吹く風のタタルさん、ほんとにタタルさんでいいのか奈々ちゃんは・・・。

 さてもう一つの収録作「江戸の弥生闇」は江戸時代の吉原と花魁についてタタルさんの薀蓄が炸裂するストーリー。神社仏閣、お墓巡りが趣味のタタルさんはどこまで知識が広いのか・・。  

 江戸時代の話ということで、神話時代に比べると当然現代の文化に近づいている訳で、その内容も比較的分かりやすいです。吉原の綺羅びやかさ・華やかさはあくまで光の部分だけで、光のあたらない所には闇があるというのは当然で、なんとなくの知識は持ってました。
 この小説内で語られる吉原の文化・風俗を自分なりに考えると、その時代の政治や歴史の鏡写しにというか、そのどちらが無くても成立し得ないものだったのではないか、と思うし吉原に象徴された時代の闇というのは、今の時代にも通じてるかもしれないですね。

 タタルの吉原薀蓄と並行して、マンションで発見された死体の女性のエピソードが並行して描かれます。この部分がいわゆるミステリー部分にあたる事になるんでしょうが、事件そのものが不可思議な謎というものがあまりなく、小説的にもタタルさんパートの講釈を具体例的な役割以上のものを求めてないように感じました。ラストのエピソードもやや蛇足ですし。

 シリーズが進むに連れて、ミステリ部分と歴史・神話部分の乖離が著しくなってきてますが、かといってミステリ部分を無くしてしまうと普通の歴史薀蓄物になってしまうので、さじ加減が難しいですねぇ。でもこのシリーズの影響で色々な所に出掛けるようになったので、シリーズは続いてほしいのですが・・。




採点  ☆2.8