『月の夜は暗く』(☆3.0) 著者:アンドレアス・グローバー

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「母さんが誘拐された」
 ミュンヘン市警の捜査官ザビーネは、父から知 らせを受ける。母親は見つかった。大聖堂で、パイプオルガンの脚にくくりつけられて。遺体の脇にはインクの缶。口にはホース、その先には漏斗が。処刑か、なにかの見立てか。
 ザビーネは連邦刑事局の腕利き変人分析官と共に犯人を追う。そして浮かび上がったのは、別々の都市で奇妙な殺され方をした女性たちの事件だった。『夏を殺す少女』の著者が童謡殺人に挑む。

Amazonより

 グルーバーの作品を読むのはこれが三冊目。他2冊はシリーズ物だったので、ノンシリーズはこれが初めてだったけど、サスペンス基調の昨分は他の作品と通じますね。

 母を殺されたザビーネが変人分析官スナイデルと犯人を追うパート、夫との夫婦関係に悩みながら心理療法セラピーをおこなうヘレンのパート、さらにはそのヘレンと同じクライアントだろうと思う人物の数ヶ月前のセラピーを描く同じ心理療法士ローゼのパートが交互に描かれていく。

 物語のベースになる連続殺人事件、とにかくエグいです。コンクリートで身体を固められ、排泄と栄養官の管だけを装着されて放置される、縛られて身動き出来ない状況で猛犬を放されて・・などなど。捜査が進むにつれ、殺人が童謡に見立てられているのが分かるんですが、実際にほんとにあるらしい童謡がなかなかエゲツないです。

 和製ミステリーで見立てといえば「獄門島」の俳句、「悪魔の手毬唄」での手毬唄だったりイメージを膨らましたものや、ミステリの為に創作された物が多かったり、あるいは外国ではやっぱり「僧正殺人事件」や「生者と死者と」のようなマザーグース物が定番のイメージですが、この本でとりあげられるのはドイツで実際にある童謡「もじゃもじゃペーター」。作中だけでなく、巻末に童謡全編が収録されてますが、あまりの因果応報系の内容に、これって童謡として広めていいの?と、あらためて童謡の在り方について考えさせられます。

 ストーリーそのものを全体的に見てみると、心理療法士たちのパート部分である程度事件の全貌が伺える分、意外性には少し欠けると思います。ただ、作者がこの作品でみせたかったのは、意外性のあるミステリではなく、犯人の異常心理を前面に押し出したスリラー型サスペンスなのではないかと思います。
 そういった点では時間軸のズレた2つのサイコセラピーの場面を並列することで、犯人だけでなくセラピスト達の自己顕示欲が垣間見えるなど、物語の盛り上がりとしては一定の効果をもたらしてると思います。

 ただセラピストの内容自体は定型的な印象で独自性という部分はそこまで無かったかなと思うし、「羊たちの沈黙」などの傑作に比べれば、ストーリーそのものへの深みをもたらすという部分では弱いかなと思います。

 この作品では、ザビーネと一緒に事件を追う分析官スナイデルの変人っぷりも見どころ。変人キャラクターとしては類型的でそこまで突出した個性はないけれど、マリファナ吸ってみたり勝手に本屋から本を持ち出したりするとのは、なんだか往年の名探偵を見てるような気分にはなれます。ザビーネとの相性もなかなか悪くなかったし、もしかしたらシリーズ化される(された?)かもしれないですね。

 ここまで三作読んで、サスペンス作家としての安定した力量は感じられるので、あとはそこをベースに個性がもっと出てきてくれれば、もっと楽しんで読めそうな気がしますね。


採点  ☆3.0