『ブルーローズは眠らない』(☆3.0)  著者:市川憂人

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 両親の虐待に耐えかね逃亡した少年エリックは、遺伝子研究を行うテニエル博士の一家に保護される。彼は助手として暮らし始めるが、屋敷内に潜む「実験体七十二号」の不気味な影に怯えていた。
 一方、〈ジェリーフィッシュ〉事件後、閑職に回されたマリアと漣は、P署の刑事ドミニクから依頼を受ける。幻の青いバラを同時期に開発した、テニエル博士とクリーヴランド牧師を調査してほしいと。しかし両者への面談直後、温室内で切断された首が発見される。バラの蔓が扉と窓を覆い、密室状態の温室には縛られた生存者と「実験体七十二号がお前を見ている」という血文字も残されていた。『ジェリーフィッシュは凍らない』に続くシリーズ第二弾!

Amazonより

 デビュー作「ジェリーフィッシュは眠らない」で登場した、マリアと漣のコンビが再登場。作中「ジェリーフィッシュ〜」に言及するコメントは出てくるけれど、真相については全く触れていないので、こちらから読んでも特に大きな問題にはならないと思います。

 物語の進行は「ジェリーフィッシュ〜」と同様、2つの時間軸と思われる物語が交互に描かれながら、それぞれの物語のリンク具合が謎を深めていくというところでしょうか。
 前作もなかなか専門用語が登場してきましたが、今回もしょっぱなから青いバラが生まれるための条件をきっちり「分子式」で説明していただけます。

C15H8O2(OH)4→ペラルゴニジン(黄)
   ↓
C15H8O2(OH)5→シアニジン(赤)
   ↓
C15H8O2(OH)6→ペラルゴニジン(青)

もういきなり( ゚д゚)ポカーン。でもそのあとに我らが(?)マリア様が、理系の知識を文系の言葉で語ってくれるので、とりあえず「こーいうことね」と最低限のイメージはできました。そのあたりは「ジェリーフィッシュ〜」でも同じだったので、もしかしたらそういう狙いもあったキャラ作りなのかもしれんですね。

 物語の発端となる、この世に存在しなかった青いバラ。二人の人物によって産み出されたとされた花は、生産者がつけたそれぞれの名前「深海」と「天界」のように、時には深淵のように、時には天上世界のような姿を見せ、それぞれの場面のイメージを補完してくれてます。

 青いバラの話にとどまらず、DNA鑑定であったり、体外受精を想像させる描写があったりと、全編「神に抗う創造」の物語になっているというか、その象徴が序盤でその存在を匂わされる「実験体七十二号」でしょう。その姿はなかなか登場しませんが、妄想の中では浦沢直樹PLUTO」(手塚治虫原作の「リメイク版」の方ですね)がよぎりました。実際作者が描きたかった一番のポイントはこの部分だったのかもしれませんが、それぞれの思いがあり、遺伝子に関する道を進みながら、その先に待っていた世界を考えると、果たしてこれで良かったんだろうか、と虚しくなります。

 正直、ある程度青バラがなんらかの動機には繋がってるだろうなとは想像してましたが、それにしても動機の設定はやや強引(前作もそうでしたが)かな、特に過去の事件に関しては色々な点を含めて、現代の事件における布石以上の何かに乏しかったなと思いました。せっかくなので「実験体七十二号」をもう少し生かせればとも思ったんですけどね。

 作品全体に仕掛けらたある仕掛けについては、薄々そうなのかな、というイメージはあったので、明らかになってもそこまで驚きは無かったのですが、もう一つの点に関していえばまったく気づいていなかったので、ちょっとビックリしました。ええ、それにしちゃあ不自然なんでは?と思って確認しましたがそうじゃなかったですね。やられました。

 系統として「ジェリーフィッシュ〜」と同系統の作品ということで、インパクトとしてやっぱり前作ほどではなかったし、私が気づかなかった部分に関しても物語の驚きとはまた少し違うのかな〜って思ってしまいました。
 けっして悪くはないんだけど、三作目はもうあと一捻り練り込んだ作品を期待したいです。

 最後にふたつのバラを生み出した博士と牧師のファーストネームが、フランキーとロビンなのはやっぱりアレですかねぇ・・・。


採点  ☆3.0