『マツリカ・マジョルカ』(☆3.5) 著者:相沢沙呼

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 柴山祐希、高校1年。クラスに居場所を見付けられず、冴えない学校生活を送っていた。そんな彼の毎日が、学校近くの廃墟に住む女子高生マツリカとの出会いで一変する。
 「柴犬」と呼ばれパシリ扱いされつつも、学園の謎を解明するため、他人と関わることになる祐希。逃げないでいるのは難しいが、本当はそんな必要なんてないのかもしれない…… 彼の中で何かが変わり始めたとき、自らの秘密も明らかになる出来事が起こり!? やみつき必至の青春ミステリ。


Amazonより

 初挑戦の相沢沙呼さん。「午前零時のサンドリヨン」はずーっと、Kindleの読み放題に入ったまま放置状態。そっちから先に読めよ、という気もしますが。
 基本的には主人公の通う学校で起きたちょっと不思議な事件を、廃墟ビルに住む謎の女子高生(?)マツリカさんが解いていくという流れ。

 この作品の一番の魅力は妖しすぎる謎の美少女マツリカさんと主人公・柴山くんの関係。廃墟を不法占拠(?)して住んでいるだけで怪しすぎますが、まるで柴山くんを挑発するかのような態度が高校生には激しすぎ。そりゃ、ノーブラ白シャツ、そばには無防備に下着を置いてたり、ずぶ濡れスタイルで登場したり、入浴シーンまで目撃してしまったら。柴山くんじゃなくても気になってしょうがないでしょ。

 好感が持てるのは、柴山くんがそんなマツリカさんに対して思春期の欲望を隠さないところでしょうか。思春期の男子高校生、理屈じゃありませんから。悪いと思ってても欲望は隠せませんから。ただ、その欲望のために時々下僕化してしまうのは、かなりのM属性というしかないのですが、気持ちはちょっと分かります。

 事件そのものは殺人なんかが起きるというわけでない、いわゆる日常の謎系に分類されるのかもしれないけれど、事件の裏側にあるものについては、作品の雰囲気と違ってダークな物が多かったですね。
 最初に学校にまつわる怪談調査を命じられてその間に事件に巻き込まれるパターンですが、最初の「原始人ランナウェイ」での走る原始人はともかく、「幽鬼的テレスコープ」の手すり女や「いたずらディスガイズ」のゴキブリ男に関してはまったくの振りだけだったのはちょっと残念。特に夕方の校舎の壁を這うゴキブリ男はすごく気になりました。

 それはともかく、事件そのものはちょっとした謎なのに、マツリカさんが語る物語は少々残酷。決してありそうじゃないという訳でなく、もしかしたらちょっとありそうなところがちょっと残酷です。マツリカさんの柴山くんの関係も含めて、思春期の不安定さが作品全体の核となってる印象です。

 ミステリとして考えると、事件の謎に対するマツリカさんの推理についてはそこまで
意外性はないのですが、一方でマツリカさんの推理が真相を得ているのかどうかについては、最後の「さよならメランコリア」での柴山くん自身の問題以外明らかにならないところでしょうか。高校生探偵ということ、警察の関与する事件ではないという事で、この状況で真相を明らかにできることってまぁないと思います。

 むしろ、事件に関するマツリカさんの推理を通して少しずつ自分を見つめて、ちょっとだけ成長していく柴山くんの物語なのかもしれないなぁ、と思って後半は読みました。それがもっとも端的だったのは収録作で唯一の書き下ろしだった「さよならメランコリア」です。柴山くん自身の謎が語られるエピソードは唯一答えが語られます。それ自体は想像がつく人も多いと思いますが、その解答がどうというよりも、その答えに向き合う柴山くんの姿と、それまでの短編でみせてきた姿がオーバーラップして、頑張れよーと思わずグッときました。

 物語としてマツリカさんの正体がよく分からないまま終わってしまってるのですが、続編が刊行されてるということで、これから明らかになっていくんでしょうね。マツリカさんと柴山くん、そして密かに気になる同級生の小西さんの関係がどうなるのか、ちょっと続きが楽しみです。

 

採点  ☆3.5