『謎の館へようこそ 白 新本格30周年記念アンソロジー』(☆4.0)

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 テーマは「館」、ただひとつ。
 今をときめくミステリ作家たちが提示する「新本格の精神」がここにある。
 奇怪な館、発生する殺人、生まれいづる謎、変幻自在のロジック――!
 読めば鳥肌間違いなし。謎は、ここにある。新本格30周年記念アンソロジー第二弾。

Amazonより

 十角館から30年。新本格30周年を記念して編まれたアンソロジー集の一冊。

 新本格以降の作家五名が参加したこの本、読みながらヒジョーに違和感がありました。読んでる途中でその違和感の正体に気づく。なぜか、「館」という括りが自分の中で「密室」という括りに書き換えられていた。
 その原因が、最初の東川さんの小説が館より密室が印象に残ったからだ、と勝手に人のせいにしてみる。

 そんな自分の勘違いはともかくとして、収録の作家については、同じ30周年企画の「謎の館にようこそ 黒」や「七人の名探偵」とダブっておらず、通して読むと新本格の中での時代の変化が読み取れるのかもしれない。

 それぞのれ作家さんとも、出来不出来はともかく、実にその作家らしい個性が出ている作品が多かった思います。
 個人的には一肇さんと青崎有吾さんが印象に残りました。特に前者の作品はこれが初めてだったので、他の作品もちょっと読もうかなと思いました。


『陽奇館(仮)の密室』著:東川篤哉

 館のタイトルに(仮)がついてるあたりが東川さんっぽい。完成途中の「館」で起きるから(仮)なのだけれども、だからって現場保存の為にトリック・現場検証に使った別の部屋を「現場(仮)」と拘る探偵さんがちょっとウザい。
 さらには探偵とワトソン役とくだらない会話合戦がちょっとウザい。まぁ、そのちょいウザが東川さんらしい気がするから、笑えない人はごめんなさいと言うしかないような。
 密室トリックについては往年の某人気作家のミステリとしての代表作と同じような大ネタトリックなので決して目新しくなけれど、その大ネタの豪快さがある意味作品の雰囲気とあっていて、ストーリーの中で違和感なく取り込まれていると思います。ある意味実に作家性が出た作品だと思います


『銀とクスノキ青髭館殺人事件~』著:一肇

 友人に殺意を抱いた女子高生が起こした事件とその顛末を描くいわゆる倒叙形式の一編。ここでの館は、過去に大勢の人が行方不明となったと噂される曰くつきの幽霊屋敷。青髭館と噂されるほどに元祖青髭公であるジルドレイとの共通点があるとは思わないけど、その曖昧さがいかにも都市伝説的な現代のお化け屋敷といえるのか。
 東川さんの作品に続いて、ある程度先が読めるので、本格ミステリとしては物足りない。といよりもそういう小説ではなく、青春ミステリとして読むべきなんだろうし、作品全体のまとまりとしては収録作中一番印象に残った。


『文化会館の殺人―Dのディスパリシオン』著:古野まほろ

 ある音楽祭でソロパートを壮大に失敗した女子高生がその直後、高校の校舎から転落死する。自殺かあるいは事件なのか。
 おそらくのシリーズ探偵なんだろうけど、まほろさんはあのシリーズしか読んでないからこの探偵がどういう存在なのかは掴めなかった。そもそもこれは館という括りにあっているのかが最大の疑問。ミステリとしての解決までの手順は踏んでいるけれど、あまりにストレート過ぎるし、青春ものとしても印象も残らない。今回の収録作の中では一番微妙。

『噤ヶ森の硝子屋敷』青崎有吾

 宿泊ペースとなる離れ以外は建物も家具も透明のガラスで出来ているという、収録作中もっともキテレツな館で起きた殺人事件。まさに言葉通りの衆人監視の状況での密室殺人事件。犯人を限定していく過程もまとまっているし、短編ながらストーリー展開の運びも上手い。なにより硝子屋敷という特性を生かしたトリックが導き出す最後の一行のインパクト。さすが、平成のエラリィー・クイーンは伊達じゃない。


『煙突舘の実験的殺人』周木 律

 突然見知らぬ館に拉致された8人の人間。実験と称するアナウンスが流れる中殺人事件が発生、解決できないと全員の命が無い。
 銭湯の煙突のような開口部、天井に出入り用のハッチのような開口部が設置された不思議な建物。非現実的な建物と非現実的な設定が産み出す豪快すぎる真相。その真相が明らかになった時、建物の意味が明らかになる展開は、収録作の中で最も「館」が主役といえる短編かもしれない。  
 ただ事件解決後の後日談の件がどうも物語から浮いてしまっているような気がして勿体無い。


『私のミステリーパレス』著:澤村伊智

 まるでガリバーの旅行記のような建物を中心に、2つの物語が入れ子になっている構造は、なんとなく澤村さんらしいなぁ、と思う。収録作の中で一番ロジカル的でないし、最も真相にたどり着けない小説かもしれない。その代わり、真相が明らかになった後のなんともいえない気持ちの悪さが残るあたりはミステリー作家というよりホラー作家枠に近い澤村さんの個性が出ていると思う。ミステリーな館ではなく謎の館がアンソロジーの括りという意味では、ちゃんとルールを守りつつ、気負わず自分のフィールドで勝負した作品といえるのでは。

 

採点  ☆4.0