『ししりばの家』(☆4.0)  著者:澤村伊智

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 夫の転勤に伴う東京生活に馴染めずにいた笹倉果歩は、ある日幼馴染の平岩敏明と再会する。彼の家に招かれ平岩の妻や祖母と交流をしていく中で果歩の心は癒されていくが、平岩家にはおかしなことがあった。さあああという不快な音、部屋に散る不気味な砂。怪異の存在を訴える果歩に対して、平岩は異常はないと断言する。
 一方、平岩家を監視する一人の男。彼はこの家に関わったせいで、砂が「ザリザリ」といいながら脳を侵蝕する感覚に悩まされていた。果たして本当に、平岩家に怪異は存在するのか―。
 『ぼぎわんが、来る』『ずうのめ人形』に続く、ノンストップ・ホラー!


Amazonより

 前作の「恐怖小説 キリカ」は「ミザリー」のような展開のノンシリーズのサイコ・ホラーだったですが、ふたたび「ぼぎわん」「ずうのめ」に続く比嘉家の女性が活躍するシリーズ第三弾。ちなみに本作に登場するのは琴子さんですが、過去2作はだれだっけ、琴子の妹だったっけ、、、、本当に最近記憶が、、、。

 ということで、今回は再びJ・ホラー系。東京で偶然出会った幼馴染の家にいくと、明らかに何かおかしい。でもとうの住人たちはそれをおかしい、と思っていない。
 導入部で、その家の昔の住人の話であろうエピソードが語られ、さらにはその後廃墟になったその家に冒険に行った子供たちが原因不明の怪異に襲われて・・・という展開は、ちょっと「呪怨」っぽいですね。

 近年のJ・ホラーの二大巨頭といえば「リング」の貞子さんに「呪怨」の伽椰子さん。両方共ビデオを見るか、家に入っちゃうかすると問答無用で即アウト。特に伽椰子さんなんて貞子さん以上に助かる手段が無い印象。なにせ貞子さんはそれでも恨みを持つ理由があるから除霊できそうな可能性を考えられるけど、伽椰子さんは若干自分勝手な逆恨みの要素も強かったりするので、やってられません。

 そんな二人の共通点、それは実態の存在が曖昧なことでしょうか。外国のホラーでいうとジェイソンだったりフレディだったりゴーストフェイスだったり、生きている人間{怪物)かどうかは別にして、リアルな存在感が半端ないし、実態としての彼らから逃げ切れれば助かる事ができる気がするところが、J・ホラーのキャラとの違いでしょうか。

 ということで、今回の怪異の主役である「ししりば」(←基本的にこれはお約束でもあるので、ネタバレにならないと勝手に、、、)についても、その根源がどこにあるのか、その存在の意味がどこにあるのか、なかなか正体を現してくれません。ししりばそのものよりも、怪しい家で暮らす平岩一家の、家中に砂がしきつめられているのにそれが当然と思う様子、さらにはその平岩家の不穏な空気に徐々に取り込まれていく果歩の姿の方がなんか怖いです。

 そして怪異と同時進行で描かれる果歩と勇大の夫婦間のすれ違いも、後半の物語の伏線にはなってます。そういえば、シリーズ過去2作でも怪異と並行して家族をモチーフにした材料が伏線となっていたなぁ。

 色んなレビューで比較される事がある三津田信三さんの作品。メインシリーズの一つである刀城言耶シリーズでみると、モチーフとして民俗学があり、その中で古い家族体系の中での束縛、あるいは因習を守る事に対しての価値観の固定化が悲劇を巻き起こすパターンが多いと思うですが、この作品もまた、家族の関係性こそ現代的なものに置き換わっているものの、無意識のうちに価値観に束縛されてしまっていく姿は似てるのかもしれません。
 ただ、刀城言耶シリーズ以外の作品を殆ど読んでいないし、家三部作や作家三部作を読んでみると、もしかしたら関係性に関する印象も変わってくるのかもしれませんが、、、。

 すこし話が横道に逸れてしまいましたが、ホラー部分の描写は変わらず安定しているし、明らかに異常な環境に適応している人間の不気味さについても、砂という小道具が効いていてスッと頭の中に入ってきます。そういう意味ではシリーズとしての安定感も出て来ているんでしょうね。

 ただ、やっぱり不満が残るのが終盤の展開、過去のシリーズ作品もそうでしたけど、そこまで実体が見えないゆえに恐怖を生み出したものが、どういう形であれ実体として直接的な行為が前面に出て来ると、それまであった怖さの質が変わってきます。精神的恐怖から暴力的恐怖に変わるといっていいんでしょうか。

 「ぼぎわんが、来る」なんかはその暴力的恐怖が、かなりエンタメ的な盛り上がりを見せてましたが、今回はエンタメというよりJ・ホラー的な感じというか、ビジュアル的にドッカ~ンというよりヒタヒタベチョな感じというか、、、。
 前作までは盛り上がりの勢いで物語が閉じてた(悪くはないです)のが、もう少し控えめな分若干拍子抜けに感じる所も出てきてるのかも。特に「ししりば」のある弱点については、それ??と一瞬思ってしまいました。どうせなら、リングや呪怨みたいに最初からまっとうな解決なんかしない、ぐらいの作品をこのシリーズで出してもらいたいなぁ、、と思います。

 とりあえずこのシリーズはどれも映像向きだと思うのは私だけ???


採点  ☆4.0