『失われた地図』(☆3.6)  著者:恩田陸

イメージ 1

直木賞受賞第一作! “恩田ワールド”全開のエンターテインメント長編

錦糸町、川崎、上野、大阪、呉、六本木・・・・・・。
日本各地の旧軍都に発生すると言われる「裂け目」。
かつてそこに生きた人々の記憶が形を成し、現代に蘇る。
鮎観の一族は代々、この「裂け目」を封じ、記憶の化身たちと戦う“力”を持っていた。
彼女と同じ一族の遼平もまた、同じ力を有した存在だった。
愛し合い結婚した二人だが、息子、俊平を産んだことから運命の歯車は狂いはじめ・・・・・・。

――新時代の到来は、闇か、光か。
Amazonより

日本全国に突如現れる謎の裂け目。そこからは「グンカ」と呼ばれる謎の亡霊が湧き出てくる。裂け目を塞ぎグンカを倒す役目を持つ「見える一族」。

 第1話である「錦糸町コマンド」に登場するグンカは軍服を着ている。その名前の響きと併せて、「グンカ」の正体をいわゆる近現代、特に太平洋戦争前後の軍人の怨霊的なものなのかな、と思ったら、第3話の「上野ブラッディ」では、江戸末期の方々(彰義隊)が登場する。

 どうやらグンカは時代そのものとは関係ないらしい。作中の説明(独白)によると、グンカは「抑圧されたルサンチマン、抑圧された自己愛。常におのれの不遇の責任転嫁先を探す不満」が集積した場所に登場するという。どうやらグンカというは未練(?)を残したモノを取り憑き利用する、あるいは操るモノの総称ということでしょうか。

 と、そんな世界観の物語を何の説明も無く、さも当然のように目の前に拡げいていくストーリー展開は、恩田さんらしい「投げっぱなしスタイル」の作風。そういう意味では、「蜜蜂と遠雷」から恩田さんに入った人は次にこの作品には行かないほうがいいだろう、と大多数の恩田さんファンがアドバイスするんじゃないかという系統でしょう。

 構成としては連作短編集という形でいいと思いますが、一話ごとに語り手を変えることによって、グンカの位置付けやそれを巡る様々な事象、さらには主人公たちの心の揺れ動きがくっきりと浮き上がってきます。
 それにもかかわらず、物語の柱はどこまで進んでも掴めない。なぜ主人公たちはグンカを見ることが出来るのか、裂け目はなぜ現れるのか、グンカの増殖を止めなければどうなるのか、はっきりと語られることは最後までありません。

 ほかにも、呉の街でグンカに追い詰められた主人公たちの前に突如現れグンカを一掃したあの「戦艦」や、最終話「六本木クライシス」のラストに登場する人物の存在意義など、語られなかった出来事が溢れています。
 語られなさすぎて、この作品の裏側には現代という時代、あるいは現代における男女の関係を「グンカ」として偶像化させた比喩的な物語でないか、とすら思いました。多分そんなことはありませんが。

 それにしても、余りにも投げっぱなしな上にラストのあの展開は、続編がありそうな雰囲気。もしかしたら続編の情報とかでているんでしょうか?

 でも、この物語はなんとなくここで終わるのが案外キレイなのかもしれない。この意図的に説明を省略されている物語に理屈がついてしまうと、もしかしたら普通に面白いだけのストーリーになってしまう気がします。
 この作品が面白いか面白くないかはかなり好みが分かれると思いますが、その賛否両論の世界もまた恩田ワールドなんだろう。
 


採点  ☆3.6