『刺青の殺人者』(☆3.6)  著者:アンドレアス・グルーバー

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全身の骨が折られ、血が抜かれた若い女性の遺体が、ライプツィヒの貯水池で見つかった。娘の遺体の確認にベルリンからやってきた母ミカエラは、自分一人でも娘が殺された理由をつきとめ、姉と一緒に家出したまま行方不明のもうひとりの娘を捜し出そうと堅く心に決めていた。事件を担当する上級警部ヴァルターは、ともすれば暴走しようとするミカエラに手を焼きつつ調べを進める。一方ウィーンの弁護士エヴェリーンは、女性殺害の嫌疑をかけられた医師からの弁護依頼を受けていた。

Amazonより

 『夏を殺した少女』で登場した、ドイツの刑事ヴァルターとウィーンの女性弁護士エヴェリーンが再び登場するシリーズ第2弾。
 前作はミステリとしてのロジックはあるものの、それ以上にスピード感溢れるサスペンスが印象に残った良作だったと思うのですが、シリーズ2作目にあたる本作は、前作以上にエンターテイメント性が強くなったような気がします。

 冒頭のプロローグ。拉致された娼婦が殺される場面。いきなり第3脊椎を骨折させて四肢麻痺にしてしまうという、なんともイヤーな残虐シーンが描かれます。さらっともう自分では身体を動かせないと被害に伝えちゃう犯人が怖すぎ。
 その後、いくつかの都市で同じような殺人事件が起こっていることが判明。そのうち一件をヴァルターが関わる事になります。今回もやたら喘息の発作をおこし、さらには国外へ語学留学へ旅立った愛娘を心配しながらも、自分の役割を超えて事件にのめり込んでいく熱さは変わってません。

 一方で、エヴェリーンもまた同一犯の仕業と思われる別の死体について、殺害容疑を掛けられた医師・コンスタンティンの弁護を依頼されます。前作で触れられていましたが、エヴェリーンには幼少期のトラウマが有り、性犯罪の過去があった人物の弁護は受けないことにしていましたが、紆余曲折を経て、彼の弁護を引き受けることに。引き受けた結果、法曹界での恩師と裁判所で対決することになり、さらには恋人・パトリックとの間に微妙な空気が流れてしまいます。

 それぞれのストーリーが交互に描かれ、クライマックスで一つになる手法は前作同様ですが、今作ではそれぞれのパートに主役たちを上回る個性的な登場人物がいます。

 まずは、ヴァルターの関わった事件の被害者の母、ミカエラ。悲惨な娘の死体を見た後、犯人を探すために今まで無抵抗だったDV夫に犯罪スレスレの行為をかまして逃亡。   
 犯人を見つけるためにヴァルターさえも振り回すその暴走っぷりは、最初こそ「ムチャしすぐだぜ、オバサン!?」と思いますが、途中からその暴れん坊ぶりが楽しみになってきます。暴走と言っても壊れているわけではなく、あくまで死んだ娘と行方不明になっているその妹を案じての行動というところがぶれないので、ついつい感情移入。
 しかし、重要なデータや拳銃、車までミカエラに繰り返し奪われちゃうヴァルターも本当に刑事か??というぐらい脇の甘いのどうなのよ。もしかして、死んだ妻と似た雰囲気を持っているから?まぁ、前作でいい感じなった人との中が進展しなさそうなので、そういう意味ではミカエラに惹かれるのもしょうがない??

 そしてエヴェリーンのパートでは、事件の依頼人コンスタンティンが異彩を放っています。事件を依頼しに来たときの不遜な態度、次から次へとエヴェリーンに話してない事実が出てきて、彼女も弁護を降りようとしますが、その時にとった手段がまたエゲツない。本当に犯人かどうかはわからないですが、どっちにしろ明らかに裏がありまくりなので、怪しいことには変わりありません。事件の弁護を引き受けたことによってエヴェリーンとパトリックの間にも予想外の展開が待っていたりするので、もうなんで弁護引き受けたのよエヴェリーン!!

 謎解きとしてみたら、容疑者の数も絞られててある程度想像はつくし、終盤のどんでん返し的な展開もはまってると言い難いです。そもそものどんでん返しも犯人の異常性を際立たせる類なので、作者も意外性というのはそこまで重視してないのかもしれませんね、やっぱり。
 ただ、猟奇サスペンス的な要素が濃い割には死体の描写が淡白で、犯人が拘ったであろうポージングやデザインが今ひとつ思い浮かびにくいのは難点かも。

 となるとやっぱり、このシリーズは映像向きだなと再確認。特に今作は、猟奇的な展開と登場人物のキャラ立ちも含めて、映像で見た方がインパクトがありそうです。そのときには原作で不満が残ったビジュアル面も解消されるかも。。

で、最後に前作と同じ感想。

なんでこのタイトル???原題の「復讐の秋」の方がいいんじゃない???


採点  ☆3.6