東京の文教地区の町で出会った5人の母親。育児を通して心をかよわせるが、いつしかその関係性は変容していた。―あの人たちと離れればいい。なぜ私を置いてゆくの。そうだ、終わらせなきゃ。心の声は幾重にもせめぎ合い、それぞれが追いつめられてゆく。凄みある筆致で描きだした、現代に生きる母親たちの深い孤独と痛み。渾身の長編母子小説。 Amazonより
角田さんの小説はこれが初めて。映画になった『紙の月』や『八日目の蝉』も未見ということで作品の世界に触れるのもこれが初めて。
まったくの偶然で知り合うことになった5人の母親達。育児を通して所謂「ママ友」になっのだが、小学校のお受験を通じて少しずつその関係にヒビが入っていく。
今回登場する5人の母親はそれぞれに性格もそれまでの生活環境も違います。
繁田繭子はけっして裕福ではなく、お金を貯めながら華麗な生活を夢見ていたが、義父の遺産で分譲マンションに引っ越してくる。
江田かおりは二番目に好きだった男と結婚しながら、かつての上司田山と不倫をしている(まるでどこぞのドラマの設定だ^^;;)。
久野容子は平凡な生活をおくる自分に息苦しさを感じながら生きている。
高原千花は、堅実な結婚を幸せな生活を送りながらも、破天荒な生活を送る妹にコンプレックスを感じている。
小林瞳は拒食症の過去を持ち、内向的な性格ながら宗教関係で知り合った夫と暮らしながら、子育てをしている。
江田かおりは二番目に好きだった男と結婚しながら、かつての上司田山と不倫をしている(まるでどこぞのドラマの設定だ^^;;)。
久野容子は平凡な生活をおくる自分に息苦しさを感じながら生きている。
高原千花は、堅実な結婚を幸せな生活を送りながらも、破天荒な生活を送る妹にコンプレックスを感じている。
小林瞳は拒食症の過去を持ち、内向的な性格ながら宗教関係で知り合った夫と暮らしながら、子育てをしている。
冒頭の第一章ではそれぞれが出会う前の生活を描く。ここで読者はそれぞれの性格を知ることになりますが、どの母親たちも特殊な設定を持つわけではなく、身近にいてもおかしくない存在として描かれています。
彼女たちの共通点をあげるなら、全員今の生活に漠然とした不安あるいはストレスを感じながら、理想の居場所を夢想してるということになるかもしれません。
彼女たちの共通点をあげるなら、全員今の生活に漠然とした不安あるいはストレスを感じながら、理想の居場所を夢想してるということになるかもしれません。
第二章で彼女たちはそれぞれ出会い、ママ友の関係を築いていくことになりますが、それぞれに理想の居場所に手が届きそうな場所におり、その理想の場所の住人としてお互いが存在することになります。お受験に対するどちらかというと否定的な立場を取っている彼女たちにとって、お受験を意識する他のママ友グループとの価値観との差を、同じ仲間として付き合っていくことによってうまく差別化できてるんでしょう。
第二章の中でも、彼女たちがそれぞれコンプレックスや劣等感を感じる場面もありますが、それは同じママ友たちに対してではなく、それ以外の因子に向かっています。ストレス因子が外側に向かっている事によって、彼女たちはその内側で共同戦線をはり、安住を感じることが出来ている。
第二章の中でも、彼女たちがそれぞれコンプレックスや劣等感を感じる場面もありますが、それは同じママ友たちに対してではなく、それ以外の因子に向かっています。ストレス因子が外側に向かっている事によって、彼女たちはその内側で共同戦線をはり、安住を感じることが出来ている。
それが第四章でお受験に関するノンフィクションを書きたいというかおりの知人ユリのインタビューを受けることにより、少しずつ変化が訪れていく。お受験に対する母親をラベル化しているかのように発言を誘導しようとするユリのインタビューに対して、少しずつそれぞれの母親の考え方に違いが生まれてくる。
この場面以降、お受験が軽蔑するものから現実の選択肢として彼女たちの前に迫ってくる。お受験という一種の競争世界が現実の選択肢になることによって、それまで共同戦線を張っていた彼女たちは、お互いがライバルとなりうる事に気付きます。
それまでプラスの見方をしていたママ友の行動が欠点に見えるようになり、それまで憧れていた部分が自分へのコンプレックスとなって突き刺さってくる。お互いのふとした行動があらぬ疑惑をおこして、さらなるすれ違いを生んでいきます。
この場面以降、お受験が軽蔑するものから現実の選択肢として彼女たちの前に迫ってくる。お受験という一種の競争世界が現実の選択肢になることによって、それまで共同戦線を張っていた彼女たちは、お互いがライバルとなりうる事に気付きます。
それまでプラスの見方をしていたママ友の行動が欠点に見えるようになり、それまで憧れていた部分が自分へのコンプレックスとなって突き刺さってくる。お互いのふとした行動があらぬ疑惑をおこして、さらなるすれ違いを生んでいきます。
読み終わってみると、彼女たちは自分たちの子どものお受験を通して理想の空間を作ろうとし、その中で「◯◯ママ」や「◯◯ちゃんのお母さん」としか呼ばれなくなった自分のアイデンティティを取り戻そうとしたのかもしれないと感じました。それぞれの夫の存在感が小説内で殆ど無いのも、彼女たちのそんな感情に拍車をかけたのかもしれません。
エピローグ的な最終章の前、5人の母親たちの破綻した姿が描かれますが、そこまで名前で表現されていた母親たちが「彼女」と無個性な形で表現されていたのも、その象徴なのかなと思っていしました。結局、理想の場所は必ずしも居心地いい場所、自分が自分でいることの出来る安息の場所とは限らないということなんでしょう。
お受験という分かりやすいテーマで母親としてのストレスの暴発を描いた小説ですが、お受験に限らず母親は常にこんな感情に晒されているのかもしれないと思うと、すごく複雑な気分。強烈に後味は悪いです。
家長が同じようなストレスを会社で感じてたとしても、家という逃げ場所がある(なってない人もいるかもしれませんが)事を考えると、改めて家を守る人の偉大さと大変さを痛感させてくれました。
家長が同じようなストレスを会社で感じてたとしても、家という逃げ場所がある(なってない人もいるかもしれませんが)事を考えると、改めて家を守る人の偉大さと大変さを痛感させてくれました。
採点 | ☆4.0 |