『狩人の悪夢』(☆3.6)  著者:有栖川有栖

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 人気ホラー作家・白布施に誘われ、ミステリ作家の有栖川有栖は、京都・亀岡にある彼の家、「夢守荘」を訪問することに。そこには、「眠ると必ず悪夢を見る部屋」があるという。
 しかしアリスがその部屋に泊まった翌日、白布施のアシスタントが住んでいた「獏ハウス」と呼ばれる家で、右手首のない女性の死体が発見されて…。臨床犯罪学者・火村と、相棒のミステリ作家・アリスが、悪夢のような事件の謎を解き明かす!


Amazonより

 一応国内重視のミステリ読みの私。乱歩から2000年代新本格までの主要な作家さんはだいたい抑えていると思っているのですが、その中で有栖川有栖さんはなぜか縁が薄い。作品数の割に読んでる作品が少ない。。

 特にシリーズ物、江神さんシリーズは長編は全部読んでる(「洞察」は積読)んですが、今や有栖川さんの代表作といえる火村英生シリーズに関しては初期の作品は多少読んでるだけで、国名シリーズは『マレー鉄道の謎』だけだし、短編集を読んだ記憶なし。最後に読んだのは「乱鴉の島」だと思います。

 読み始めた頃は青春ミステリと本格ミステリが融合した江神さんシリーズの方が好きだったという理由があるし、派手さは控えめな火村さんシリーズがあまり好みじゃなかったので、今もその印象を引きずってるのかもしれません。

 という事で久しぶりの火村シリーズ。シリーズ作品ということで火村さんと作家アリスの関係も作品の中で少しずつ変わっていってるだろうと勝手に想像してるんですが、冒頭の偶然出会う場面の雰囲気なんかは、ああそれでもいい関係なんだろうな〜、と想像できます。

 今回は泊まると悪夢を見る部屋を持つホラー作家の自宅に泊まりに行ったアリスが、殺人事件に巻き込まれるというお話。ううむ、泊まると悪夢を見るなんて絶対泊まりたくない部屋ですな。さらにはかつてホラー作家のアシスタントを勤めて不慮の病死を遂げた人物に関しては、悪夢しか見ないという、、、嫌だ嫌すぎる・・・・。

 それはともかくとして殺人事件の遺体は右手首を切られていた状態で発見され、死因は矢を首に刺されたから。ホラー作家の人気シリーズの主人公は弓矢の使い手ということなので、ちょっと見立て殺人っぽいし、過去の記憶の中の火村シリーズとは違う感じ(といっても、読んだ作品の記憶がほとんどないので、印象自体が間違ってるかもしれませんが)。

 さらには舞台となった作家の別宅(亡くなったアシスタントが使っていた家)に通じる道は落雷による倒木で一時的に通行止めになっており、ちょっとしたクローズドサークル状態。とはいっても倒木はすぐに片付けられているので、探偵たちや容疑者たちもどこか出掛けようと思えば出掛けられる状態だし、クローズドサークルといっていいのかどうかちょっとだけ謎ですね。ただ、速攻通行止めが解除されたにも関わらず、火村・アリスコンビは殆ど現場から動かないので、やっぱりクローズドサークルっぽい?

 さて、今回の作品は真犯人や動機に関しては、割とストレートなので何となく想像できます。むしろ肝としては、火村さんがその結論に至るまでのロジックの過程を楽しむということになるんだろう、と思います。そして、その過程での火村さんとアリスの会話が自分の記憶していたそれより意外と楽しい。もしかしたら、頭の中では斎藤工窪田正孝に自動変換されてたのが原因かも。あのドラマはなんとなく見てたし。

 有栖川さんのドラマといえばwowowで「双頭の悪魔」も昔してましたねぇ。江神さんに香川照之、有馬マリアに渡辺満里奈だったのは覚えててその他のキャスティングはまったく記憶してないんですが、DVDとかにならないかなぁ・・・。おっと話がそれてしまった。

 この作品については、犯人が起こした様々な行動(隠蔽工作?)の理由の為にロジックを組み立てるのが結構困難になってます。普通に考えれば意外とストレートなものがえらくこんがらがって見えてる状態。作品の中でも火村さんがそのような台詞も言っていましたが、そういう意味では読者が納得できるロジックを作るもの一苦労だったのではないかと想像するのですが、その為に登場人物のキャラ設定を上手く練っていると思うし、キャラと事件とロジックが上手く噛み合って、ラストの犯人との対決の場面でアリスがあの役割を担うところなんか、すごく良く出来てたと思います。

 ちょっとだけ物足りなかったのは「悪夢」という設定が作品の中でもう一つ活かしきれてなかったかなと。「悪夢」というフレーズに関しては作品の中でそれを思い起こさせる場面もありますが、「悪夢を見る部屋」に関していえば、物語との関連性が薄い。広げる必要もないのかもしれないですけど、そこが広がるともっと作品の雰囲気が変わったのかな、と思ったりします。

 ちなみにラストのちょっとしたサプライズに関していえば、もしかしたらこういうオチが来るかなと想像してたのですが、実際にそうなるとなんだかホッコリして作品としての後味も良かったです^^

 あとがきによるとまだまだ火村シリーズは続きそうなので、これを機会に未読のシリーズ作品に挑戦してみようかな、、


 

採点  ☆3.6