『夏を殺す少女』(☆3.9)  著者:アンドレアス・グルーバー

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 酔った元小児科医がマンホールで溺死。市会議員が運転をあやまり事故死。一見無関係な出来事に潜むただならぬ気配に、弁護士エヴェリーンは深入りしていく。一方ライプツィヒ警察の刑事ヴァルターは、病院での少女の不審死を調べていた。
 オーストリアの弁護士とドイツの刑事の軌跡が出合うとき、事件が恐るべき姿をあらわし始める。ドイツでセンセーションを巻き起こした衝撃作。


Amazonより

 何度言ったかわからないけど、海外ミステリはあまり得意じゃないですが、これは久しぶりにサクサク読めました。ドイツ・ミステリは多分初めてだったですが、経験浅めで他の圏域のミステリとの違いはよくわかりませんでしたが^^;;

 メインとなるストーリーは2つ。
 社会的地位を持つ人物たちの不審な連続事故死。オーストリアの女性弁護士のエヴェーリンは、そのうちの一件の事故現場を撮影した映像に残る不審な少女を発見する。事故は本当に偶然に起きたものなのか、同僚の弁護士も巻き込まれた事件を調査していく。
 一方で、ドイツ・ライプツィヒ警察の刑事ヴァルターは気の進まないまま訪れた病院での少女の自殺現場に不審な点を感じ、独自の調査を始める。その調査の中で、不審な死を遂げた子供が他にもいることが分かる。

 オープニングで描かれる事故死の場面で、読み手は事故の影に謎の少女が関わっていることを早々と知る。この少女がこれからの物語の鍵になるであろう事は、エヴェーリンが見つけたビデオの少女の存在からも明確になっていく。
 一方のヴァルターの物語。精神病院での一人の少女の自殺に殺人の疑惑を抱き、調査は進む。ここでも、読み手は自殺(?)した少女の遺したメモから、事件の裏に隠されている謎の構図を薄々想像する。

 その構図が産み出す絵は残酷で醜悪だ。この作品を貫くテーマは日本よりも海外でより扱われる事が多い気がする。もしかしたら宗教的な観念の違い、あるいはタブーとされる事の感覚が日本と少し違うのかもしれないが、それでも現在の事件の裏にある過去の事件の醜悪さは、国やら人種やら関係なく嫌悪感を抱くと思う。

 過去に、事件と同じ構図の体験にトラウマを持つエヴェーリンが、クライマックスで見せる犯人への葛藤にも、あまりに事件の構図が醜悪すぎてついつい、そりゃそう思うよな、と共感したくなる。もしそこのヴァルターがいなかったら、もしかしたら事件の結末は全く別の形になっていたかもしれない。

 ミステリとして見ると、謎の多くがかなり早い段階で想像できるし、意外性という意味では薄い。クライマックスでちょっとしたどんでん返し的な要素はあるものの、事件の構図が大きく変わるものでもないし、濃厚なミステリを好む人にとっては少し物足りなく感じる所もあると思う。
 ただ、それを補うテンポの良さであったり、盛り上げるところはきちんと盛り上げるというエンターテイメント性があるので、読み手としては退屈しない。2つの国で起こる別々の物語が交互に描かれるプロットながら、決して煩雑に感じないのも、物語の核がはっきりしているからこそのわかりやすさも要因の一つに感じる。

 分かりやすさといえば、登場人物の設定もそうだ。幼少期のトラウマを抱える女性弁護士、男やもめで一人娘を一生懸命育てながら、時折亡き妻への思慕をみせる冴えない刑事。キャラクター設定としてはありふれていえるけれど、その分読み手としても登場人物の心理を読み取ることが出来、物語に引き込まれていく。

 結局のところ、著者が描きたかったのはエヴェーリンの葛藤の部分であって、けっしてミステリとしての構図であったり、トリックでは無かったのかもしれない。そう考えるとこのわかり易さはプラスに働いていると思う。

 好みは別としても、読みながら十分楽しめたし、このスピード感は映像向きなのかもしれないなと、読み終わって強く思いました。 

 

採点  ☆3.9