『ケムール・ミステリー』(☆2.6)  著者:谺健二

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 ケムール人を生み出した孤高の天才作家、成田亨。彼に魅せられた男が建てた屋敷は、まさに怪物の異形で覆われていた。そこで起こる連続密室死。自殺にしか見えないのだったが…
 しかしその「ほころび」から浮かび上がってきた全体像は誰もが予想しえなかった結末とともに崩れ落ちてゆく。トリックの鬼才が放つ書き下ろし本格推理。

Amazonより

 ケムール星人・・・この言葉にピンと来る、あるいは星人の顔が浮かぶ、それだけである程度読み手の年齢が分かってしまいそうだが、テレビ特撮界の金字塔である「ウルトラマン」に登場する星人だが、読むに当たってはググってぜひその姿を確認してからにしてほしい。
 本書の中でも繰り返し語られるそのビジュアルを生み出しのがデザイナー・彫刻家である成田亨。作中でもケムール星人だけでなく、彼の手がけた怪獣やデザインが登場してくる。

 かつて阪神淡路大震災を下敷きにした「未明の悪夢」、神戸児童連続殺傷事件をモチーフにした「赫い月照」などヘビーかつ独特の世界観を発表してきた著者らしいモチーフの選び方だと思う。過去の作品もモチーフが先行しすぎて小説として破綻しかかって、あるいは破綻しているにも関わらず、歪な吸引力を持っていた。その根底にあるのは震災であり殺傷事件であり、モチーフに対する思い入れだろう。

 この作品においてのモチーフの対象は、ケムール星人ではなくあくまで成田亨。彼に対する著者の情熱が登場人物の台詞を通して伝わってくる。確かに作中登場してくる成田亨の作品をネットで調べてみると、魅力的である。時にはアンチ円谷的な匂いを漂わす(作中、ウルトラマンという表記を使わず「銀色の巨人」としているところとか)のも著者らしいとも言えるのか。

 そんな成田亨に魅せられた故・氷姫製薬会社社長が建てた屋敷で起こる連続密室死。遺体の主は引きこもり・家庭内暴力の為、氷姫家に預けられていた青少年。彼らは死体となる直前まで、人と合う時は必ずケムール星人の被り物をしていた。密室死が繰り返されるたび、そのマスクは引き継がれ、そして次の持ち主となった人物はまた死体となって発見される。

 ここだけとると、繰り返される死の連鎖と見立て、クラシックミステリのような王道のストーリーと成田亨の生み出す世界観のコラボが面白そうだけれども、読み終わってみると、モチーフとミステリの融合が過去の作品ほどにはしっくり来ない。
 いや、全く面白くない訳ではなく、それなりに止まることなく読める勢いはあるのだけれど、今ひとつ引き込まれない。
 
その原因は過去作があくまでモチーフの延長上に事件が存在していたのに対し、この作品はミステリの延長線上にモチーフが存在しているからではないだろうか。

 極端なことをいえば、ケムール星人でなくても物語は成立する(クライマックスのゆらゆらケムールはインパクトがあったが)。それゆえに事件の背景にある人間心理に対して、過去作ほどに歪な説得力が無く、逆に共感できない、客観的な見方から踏み込んでいけない。作中ケムール星人に取り憑かれ屋敷を作った社長は冒頭で死んでいる事が分かっているだけに、作中彼の魂を引き継ぐ代弁者が、もっと強く描かれていてもよかったのかもしれない。

 そしてもう一つ気になったのが、文書と構成。文章については会話文に精彩がない。そんな事わかってるよ的な発言であったり、逆にいまさら??的な内容で登場人物に同情出来ない。せめてその会話を作品の世界観の中でだけでも成立させてくれればいいのだけれども、地の文も筆の向くままに書いたままなのか?と思わせるぐらい似たような表現が重なってたりするので、効果が薄い。
 その点は構成の問題だろうと思うが、一箇所どうにもこうにもおかしいだろ、という表現、ある同じ事柄に対して、2度「聞いてない!!」と怒る場面がある。最初は何かの伏線か?と思ったが、読み終わってみると伏線ではなかったので、単純なミスだろうと思う。

 事件の概要に触れる前半は面白いのだけれども、事件の真相が明らかになる最終盤が腰砕けになるだけに、あとは作品の世界観が好みに合うかどうかで、好き嫌いはハッキリ分かれるだろうと思う。



採点  ☆2.6