『桜風堂ものがたり』(☆4.6)  著者:

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 百貨店内の書店、銀河堂書店に勤める物静かな青年、月原一整は、人づきあいが苦手なものの、埋もれていた名作を見つけ出して光を当てるケースが多く、店長から「宝探しの月原」と呼ばれ、信頼されていた。
 しかしある日、店内で起こった万引き事件が思わぬ顛末をたどり、その責任をとって一整は店を辞めざるを得なくなる。傷心を抱えて旅に出た一整は、以前よりネット上で親しくしていた、桜風堂という書店を営む老人を訪ねるために、桜野町を訪ねる。そこで思いがけない出会いが一整を待ち受けていた……。
 一整が見つけた「宝もの」のような一冊を巡り、彼の友人が、元同僚たちが、作家が、そして出版社営業が、一緒になってある奇跡を巻き起こす。

Amazonより

 老舗百貨店のテナントである書店に勤める主人公が、万引事件への対応を巡って書店を辞めざる負えなくなる。彼が残した本への情熱は、一冊の本を通じて一つの奇跡を起こす・・。
 簡単に言ってしまえばこれだけのストーリーである。物語に捻りがある訳でもなく、ある意味予想通りの直球だ。じゃあ、面白くないのか、そうじゃない。この本には、本への愛情、そして書店と店員の本への愛情に溢れている。

 「宝探しの月原」と称される主人公。彼は未知(未読)の本の持つ魅力を発掘できるという第六感を持っている。とてもうらやましく、そして素晴らしい能力。本が好きな人間だったら絶対欲しい力だ。

 今の時代、多くの本屋が街から消えていっている。Amazonをはじめとするネット販売の隆盛もあり、何処にいても読みたい本が手に入るのは正直便利だ。決して都会とはいえないところに住んでいるので、自分もよく利用させてもらっている。電子書籍もまた然り。読みたいと思った本が気軽に手に入る事自体はありがたい。

 それでも、本屋へ通うという楽しみは捨てることは出来ない。
 その一番の楽しみは、そこに行かなければ知ることのなかっただろう多くの本に出会えるからだ。それまさに主人公の二つ名の通り「宝探し」だ。そして宝探しにもっとも必要なのが、夢を膨らませてくれる宝の地図の存在だ。本屋における宝の地図こそ、店員のつくるPOPだったり、ディスプレイであったり、書店独自の帯だったりだと思う。

 小説の中では主人公の他にも本を愛する多くの人物が登場する。主人公の探し当てた宝の原石を本当の宝にするために、それぞれの方法で本を売るために奔走する。そこには不本意な出来事で書店を去った主人公の想いを継ぎたいというのもあるだろうが、それ以上に素敵な本を多くの人に読んでもらいたいという、一人の素直な思いがこの行動に繋がってるんだろうと思う。

 自分が見つけたとても大切な本を他の人にも知ってもらいたい読んでもらいたい。ささやかながら書評を公開させてもらっている。自分なりの忘備録的なところも大きいが、それと同じくらい色んな本を知ってもらいたい、という気持ちがあるから、休み休みでもなんとか続けられている理由かな、ともう。

 職場を去った主人公が辿り着く書店『桜風堂』。地域に欠かせない存在するその小さな書店で主人公はもう一度自分の思いを再確認する。小説全体としてみたら、「桜風堂」の存在が意外とあっさりしていた。また、「あとがき」で著者が触れている通り、可能な限り本当に起きそうなエピソードを展開しているのに、完成した小説はファンタジー的な所も出て来た。登場人物がいい人しか登場しないのも含めて、キレイすぎると感じるかもしれない。でも、きれいごとでもいいじゃないか、本も本屋も大好きなんだから。



採点  ☆4.6