ドラマ『そして誰もいなくなった』

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 二夜連続で放送されたクリスティの『そして誰もいなくなった』ドラマ版。結果として、渡瀬恒彦さんの遺作となったということで、視聴率や反響も大きかったのでは。
 原作は何度か読んでますが、細かいところは覚えていないので、どこまで再現してどこまでオリジナルか判断がつかないのですが、とにかく映画版『オリエント急行殺人事件』を彷彿とさせる豪華俳優陣の集結とその使い捨てっぷりは、最近のドラマでも突出してるのではないでしょうか。
 舞台設定を現代の日本に移したという事で、ちょっとした小道具が現代風になったり(ドローンまで登場)、多少トリックが変わってるのかなという所もあったのですが、とにかく豪華俳優陣ゆえの誰が犯人か分からない状態(原作を読んでるから分かってますが)は堪能できます。原作通りだと映像的な表現が難しくなるのを避けるため、あえて沢村一樹扮する相国寺警部を登場させ、探偵兼狂言回しを勤めさせることによって、ドラマとして分かり易くなったんじゃないかなと思います。

以下真相に触れる部分が多々あると思うので、原作未読の方は読まないでください。







とりあえずwikipediaとドラマ公式HPを参考にして原作の設定とくらべてみると、

(原作)ヴェラ・エリザベス・クレイソーン
秘書・家庭教師を職業とする娘。
謎の声によると家庭教師をしていた病弱な子供に、泳げるはずのない距離を泳ぐことを許可して溺死させた。

(ドラマ)白峰 涼<仲間由紀恵
元水泳選手。現在は家庭教師。謎の声によると年前に教え子をプールで溺死させた。
※ほぼ設定的にはおなじだったような気が。

(原作)フィリップ・ロンバード
元陸軍大尉。
謎の声によると、東アフリカで先住民を見捨てて食糧を奪い、21人を死なせた。

(ドラマ)ケン石動<柳葉敏郎
元傭兵の軍事評論家。謎の声によると3年前、とある戦地で兵士5名を殺した。
※さすがに原作の設定を日本に移すのは無理ですね。その分犯罪と言うには無理のある設定になったかも。でも、一番無理っぽいうのはギバちゃんなのにケン・・・。

(原作)ウィリアム・ヘンリー・ブロア
元警部。
謎の声によると、偽証により無実の人間に銀行強盗の罪を着せて、死に至らしめた。

(ドラマ)久間部堅吉<國村隼
元刑事の探偵。謎の声によると「11年前、強盗殺人犯を殺した」とされている。
※ドラマ登場時、別の名前を名乗っていたけど、原作でもそうだったのか?覚えてない・・。

(原作)ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ
高名な元判事。
謎の声によると、無実の被告を有罪にするように陪審員を誘導して、死刑判決を出した。

(ドラマ)磐村兵庫<渡瀬恒彦
公正な裁きを謳われる元裁判長。謎の声によると「7年前、担当裁判の被告人を殺した」とされている。
※原作通り、犯人。原作の犯人の設定を踏襲していると思われる。それにしても判事の格好(服にかつら)の代わりにちょんまげに裃なのにはやりすぎというより笑いがおきそうですが。

(原作)エミリー・キャロライン・ブレント
信仰のあつい老婦人。
謎の声によると、使用人として使っていた娘に厳しく接し、その結果自殺させてしまった。

(ドラマ)星空綾子<大地真央
元銀幕の大スター。謎の声によると「8年前、お手伝いの女性を殺した」とされている。
※原作はけっこうヤバい老婦人だったそうな気がするんですが、ドラマではそこまででないかも。

(原作)ジョン・ゴードン・マッカーサー
退役した老将軍。
謎の声によると、妻の愛人だった部下を故意に死地に追いやった。

(ドラマ)門殿宣明<津川雅彦
元国会議員。数々の政局に直面してきた政界の大物。謎の声によると「15年前に妻の愛人を殺した」とされている。
※原作と同じような過去を持っているけれど、愛人殺しの方法が偶然すぎる。。。

(原作)エドワード・ジョージ・アームストロング
医師。
謎の声によると、酔ったまま手術をして患者を死なせた。

(ドラマ)神波江利香<余貴美子
外科医師。釣りが趣味。謎の声によると「16年前、患者を殺した」とされている。
※なぜか原作と性別が違う。理由不明だけれども、違和感は無かった。

(原作)アンソニー・ジェームズ・マーストン
遊び好きで生意気な青年。
謎の声によると、自動車事故で2人の子供を死なせた。

(ドラマ)五明卓<向井理
人気新進ミステリー作家。5年前まではアマチュアボクサーだった。謎の声によると「5年前にサラリーマンを殺した」とされている。
※設定がかなり変わっている一人。見せ場もないままサクッと死ぬのはさすがに衝撃だった。

(原作)トマス・ロジャース
オーエンに雇われた召使。
謎の声によると、仕えていた老女が発作を起こしたときに、投与すべき薬を投与せず死なせた。

(ドラマ)翠川信夫<橋爪功

(原作)エセル・ロジャース
オーエンに雇われた召使で料理人。
トマスの妻。謎の声によると、トマスと同じく、発作を起こした老女を助けようとせず死なせた。

(ドラマ)翠川つね美<藤真利子
※これまた原作と設定が微妙に変わっているような夫婦。




 とりあえずなぜかDrだけが性別が変わってるのが謎ですが、なんとなくキャラのイメージが分かるキャスティング。ロケ地の洋館の雰囲気といい、時代がかったナレーションの調子(悪いわけでじゃない)、さらに監督が和泉聖治という事で濃さ全面。キャスト陣も芸達者の俳優陣の中でも濃い目の演技をする方が選ばれてるような気がするのは気の所為でしょうか??
 まあそうはいっても、島に到着してそうそう本当に見せ場も無く毒殺される向井理(を始めとして、大御所だろうがなんだろうが容赦ない。津川雅彦も3人目であっさり殺されちゃいます。そして、一度死ぬとほんとにその後出番が無い。いやぁ、贅沢だ。

 そんなこんなで放送二日目の中盤には、「そして誰もいなくなった」状態になります。原作ではその後の警察の捜査で11人目の存在が疑われますが、犯人の告白文が入ったボトルが発見されて事件の真相が明らかになりますが、テレビドラマでそれをするとちょっとインパクトが薄い。
 という事で、ドラマで沢村一樹扮する相国寺竜也警部が、犯人があえて残した証拠を元に事件の真相に迫る展開になります。この相国寺警部、非常に変なキャラ作りをしてましたが、時代がかった展開に妙に馴染んでました。

 そして警部の推理で発見されたのは、告白文ならぬ死を選ぶ直前の犯人のメッセージを録画したメモリーカード。その中で独白という一人芝居を演じる渡瀬恒彦の演技が上手いとか下手とかを超越したインパクト。ネットでも話題になった「末期の肺がんだ。余命幾ばくもない」「ありがとう、そしてさようなら」というメッセージ、実際の渡瀬さんとオーバーラップして、胸が詰まる。そしてドラマはここで終わるかと思いきや、さらに録画の続きが発見される。そこでは、時間が遡り、事件を起こした動機が語られる。 ちなみに犯人の独白が終わっても、事件の細かいところはまったく説明されません。まぁ、事件が発生する前の録画だからしょうがないといえばしょうがない。実際、どうやって毒を入れたのかさっぱり分からないとか、犯人が人目を盗んで殺人を起こすには時間が足りなさすぎるだろ、と思ったり。特に、一人死ぬたびに消える兵隊人形の存在。どう見ても犯人に兵隊人形を消す時間が無いだろうと思うのですが。この辺は映像化するにはなかなか大変なんですね。

 ということで、原作は別にして、ミステリドラマ的に見たら2火サス以上にツッコミどころが残りまくるのですが、それを全て掻き消すのが、渡瀬さんのラスト演技。とにかくまったく同情できない動機ながら、彼岸の向こう側にいったサイコパス的狂気を漂わせる一人芝居。もうこの演技を見せられたら細かいところはいい意味でどうでもよくなりました。

 ミステリの傑作『そして誰もいなくなった』の映像化としてはどこまで忠実に再現できてるのかは正直微妙でしたが、和泉巻頭の重厚すぎる演出(ドローンを除く)もあって、作品の持つ雰囲気はある程度再現できてたと思いますし、うん、面白かったです。

 さて、今度は録画したBBC版の「そして誰もいなくなった」を見ようかな・・。