『だれもがポオを愛していた』(☆4.0)  著者:平石貴樹

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 諸君はアッシャー家の崩壊を見いだすだろう―予告の電話は真実を告げていた。 
 錦秋のボルティモア郊外で、日系人兄妹の住む館が爆発し傍の沼に崩れ去った。妹は謎めいた言葉をのこして息絶え、兄の遺体もまた水中深くに。
 ほどなく、棺に横たわった美女の歯が無惨に折り取られる『ペレニス』、斧で頭を割られた被害者が片目の黒猫ともども壁に塗り込められる『黒猫』、各々の小説に見立てた死体が発見され、事件は更なる混迷を呈していく…。
 E・A・ポオ終焉の地で、デュパンの直系というにふさわしい探偵が本領を顕わす。ポオの言祝ぎが聞こえる、オールタイムベスト級本格ミステリAmazonより

 松谷警部シリーズを読み始めた最近。その著者である平石貴樹の代表作といわれる本作。タイトルだけでなく、章題も「アッシャー家の崩壊」「ペレニス」「黒猫」とポウの作品からとられているこだわりよう。できれば該当作品を読んでからこの本を読んだらいいかも。せめて「アッシャー家の崩壊」のだけでも。

 そんなポウ尽くしの作品。書かれたのが1985年ということで、小説の端々に時代らしさを感じる。例えば登場人物の名前。物語の探偵役は更科丹希(さらしなにき)=更級日記を彷彿させるし、物語の語り手はナゲット・マクドナルド、ロンとヤス(レーガン大統領と中曽根首相)のホモ刑事コンビ、嘱託医のペッパー博士(Dr Pepper)、ジョージ・ワシド、ジミー・カタ(アメリカ歴代大統領)・・・、ううむこの悪ふざけのセンスは80年代って感じがするのは僕だけでしょうか。

 本編の話に戻ると、アッシャー家を彷彿させるアシヤ家の兄妹死亡事件に始まる見立て殺人、予告電話、新発見されたポウの手紙、と作品を盛り上げるキーワードが全体に散りばめられている正統派の推理小説。探偵役のニッキもホームズではなくデュパンを志す新人警官。事件のポウの世界が絡んでるということで、ポーの全作集を購入し読みふける。あるいは思考のさなか、怪しげな独り言をつぶやいたりと、警官というよりやはり私立探偵という言葉が似合う。

 その反面、これらの小道具だったりキーワードの整理、あるいは見せ方については少し粗い気がする。事件が重なるに連れ、当然推理は試行錯誤されていくが、そのあたるの流れが頭に入りにくかった。これに関しては、普段自分があまり読み慣れていない外国小説的な薫りの為かもしれないし、読み慣れている人からすればそんなに問題でないのかも。実際に真相が明らかになってみると、様々な謎はきちんと提示されているし、小説として緻密に組み立てられているのが分かるわけで、推理小説としても水準は高い。

 しかし、この小説で特筆すべきは、巻末に提示される作中でニッキに事件の真相を示唆した「アッシャー家の崩壊」に関するS・W**教授(架空?)の論文である。この論文の肝は「アッシャー家の崩壊」を恐怖小説、あるいは幻想小説ではなく、あくまで犯罪小説として読み解いたことであり、またその解釈が本編である小説部分の下敷きとなっている。
 この論文、その解釈の斬新さもさることながら、あくまでポウの思考に基づいた解釈をしており、例え犯罪さ小説として読んでもポウの作品であることの本筋を外していない。

 どこを切っても、金太郎飴のようなポウ尽くしの作品。少し読みづらさもあるけれど、読んで損はない。


採点  ☆4.0