映画『3月のライオン』  監督:大友啓史

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あらすじ
羽海野チカの大ヒットコミックを、「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督&「バクマン。」「君の名は。」の神木隆之介主演で実写映画化する2部作の前編。幼い頃に交通事故で両親と妹を亡くし、父の友人である棋士・幸田に引き取られた桐山零。深い孤独を抱えながらすがりつくように将棋を指し続けてきた零は、中学生でプロ棋士の道を歩みはじめる。しかしある事情から幸田家での居場所を失い、東京の下町でひとり寂しく暮らしていた。そんなある日、和菓子屋を営む川本家の三姉妹と知り合った零は、彼女たちとの賑やかで温かい食卓に自分の居場所を見出していく。零のライバルで親友の棋士・二海堂晴信役を染谷将太が特殊メイクで演じるほか、有村架純佐々木蔵之介加瀬亮ら豪華キャストが結集。


 『3月のライオン』はとても好きなマンガだ。将棋の世界に生きる少年・桐山零を主人公に、親子・姉弟・姉妹・師弟、そしてライバル・・・。それぞれ時には笑い、時には泣き、傷つき、様々な感情が工作しながらそれでも生きていく、成長の物語。「ハチミツとクローバー」でも魅せた羽海野チカの絵の存在感、リリカルな詩のような台詞やモノローグが生み出す世界観を、映画でどこまで表現できるのか。
 制作が発表された時は不安だったけど、監督が大友啓史、そして主人公・桐山零役の神木隆之介を始めとしたマンガのキャラクターを再現するかのようなキャスティングに期待して、前編公開の映画館に足を運ぶ。

 映画で扱っている原作の長さを考えると、前後編に分かれているとは言え、やっぱり時間が短い。という事で前編は主に将棋に纏わる部分が大きく描かれており、その中で家族を失った零と彼を引き取った幸田八段家族との葛藤が平行して描かれる。原作の中でもう一つの柱となっている、川本家を中心とした高校生・桐山零を描く部分はどうやら後編に回りようだ。
 そんなバランスとなった前編は、全体の印象として原作の鬱々とした部分が強く出ている反面、悩みながら前に進む部分が弱いかなという気がした。その原因の多くは、零の心の支えとなっている川本家のエピソードが少ないため、というところが原因の一つだと思う。なので、正直見ていて重いな、という感じだった。

 それでも、零と幸田家を巡る物語、特に義姉となる香子が零に見せる愛憎が入り混じった姿は、やや重すぎる物語の前半に厚みを持たせ、映画をリードしてます。特に香子を演じた有村架純、原作の香子はむき身の刃のように感情をぶつけるキャラクターだったのに対し、映画の香子は相手の心に笑顔ですっと刃を指してくる感じ。原作と少しイメージが違うキャスティングながら、その内面を別アプローチで再現していると思うし、マンガ以上に零との危うい距離感が表現されていたと思います。

 そして映画は後半になると、将棋のシーンでも山場をいくつか迎えます。その中には零の新人王決勝戦もあるんですが、それよりも印象に残るのは島田開と後藤正宗の名人戦予選決勝。それぞれ重厚な受けの将棋を得意としていながら、名人・宗谷冬司への挑戦権を賭けた一戦で、プライドを賭けた激しい将棋をうちます。盤面もダイジェストだし、将棋に詳しくないお客ももちろんいると思うけれど、スクリーンの中で繰り広げられる戦いの緊張感はヒシヒシ伝わってくるし、おやつタイムでもガンを飛ばしあう二人、素敵すぎます。
 後藤を演じた伊藤英明の原作似っぷりも半端ないですが、なにより島田を演じた佐々木蔵之介が素敵すぎる。毛髪の量以外すべてマンガから抜け出したんじゃないという説得力、「差が縮まらないからといってそれが自分が進まない理由にはならない」という台詞をこの戦い、そして名人・宗谷冬司戦で見せてくれました。

 奇しくも昨年には松山ケンイチ主演で、同じ将棋界が舞台の『聖の青春』が公開されました。あの映画は将棋に命を燃やし尽くした男の物語でありその熱さは胸を打ちましたが、『3月のライオン』はむしろ少年(あるいは大人)の苦悩を将棋という題材を通して描いているのかなというところで、案外と両極の映画なのかもしれないです。
 後編を見ないとなんとも言えないですが、少なくとも後編を見ようとは思える映画だったということで、悪くはないと思います。
 



映画『3月のライオン』予告編?