『終着駅殺人事件』(☆3.2)  著者:西村京太郎

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 青森県F高校の男女七人の同窓生は、上野発の寝台特急ゆうづる7号」で、卒業後七年ぶりに郷里に向かおうとしていた。しかし、上野駅構内で第一の殺人。その後、次々に仲間が殺されていく―。
 上野駅で偶然、事件に遭遇した亀井刑事は、十津川警部とともに捜査を開始した。累計160万部の栄光!第34回日本推理作家協会賞に輝く、愛と郷愁の国民的ミステリー。

Amazonより

 西村さんのトラベルミステリーを読むのなんて、一体いつぶりなんだろう。中学生の頃は内田康夫さんや赤川次郎さんも含めてかなり読んでましたが、その時にこの作品も読んでいて、なんとなく内容は覚えてましたが、なんとなく懐かしくなって読んでしまいました。

 この作品は西村さんのトラベルミステリーの中でも初期の初期の作品。トラベルミステリーといえば、鉄道、そして時刻表を使ったアリバイトリックです。この作品でも当然そんな場面があります。そもそも時刻表を使ったアリバイトリックというのは、現実的に考えてどんなに複雑でもいつかは絶対バレる。現代だったら時刻表アプリを使ったら一発だもんな〜。という事で、偽のアリバイを成立させる技としては厳しい時代だと思います。

 その点ではこの作品でも同じ。なんとかバレないようにと犯人も罠を仕掛けてますが、きっかけこそ偶然でもやっぱり見破られてしまう。犯人側としてもアリバイトリックを仕掛けた理由が少し見えづらいので、トリックを仕掛ける必然性の点でも弱い。ただ、小説全体としては、どんどん容疑者が減ってるのに後半まで犯人が絞れない理由にもなってるので、そういう意味では小説の仕掛けとしては一定の成果を上げてるのかも。

 また、犯人が絞れない理由としてアリバイ以外に動機が見えてこないというのもこの作品の特徴の一つ。読み終わってみるとその動機で連続殺人しちゃうの?って思わなくもないですが、それでも小説として味わいを感じるのは、情景描写や故郷への旅愁がかなり丁寧に書き込まれてるからだと思います。
 被害者も容疑者もそして警察側の亀井刑事も青森県出身。作品発表当時は東北への玄関は上野駅だった訳ですが、東北(青森)の人にとっての上野駅の存在というのが、読んでいて伝わってきます。これが西日本の玄関口である東京駅や、信州への玄関口である新宿駅が舞台だったら起きなかっただろうというところになんとなく説得力を感じました。実際に20年以上前、東京に住み始めた時上野駅にも行きましたが、どこか他の駅と違う印象を受けた気がします。7年前の約束を果たそうとする繋がりの強さというのは、当時の空気の中ではリアルだったのかもしれないですね。それだけにたったひとつの掛け違いが多くの人の悲劇を生んでしまった事になんともいえない切なさを感じます。

 ミステリの部分は今の凝りに凝った作品群に比べるとやっぱり弱いし、古臭く感じる所もある。でもそれは当時求められたものでは無かったと思うし、ミステリ小説というよりは推理小説というった言葉の方が似合いそうな、なんだか懐かしさを感じた作品でした。



採点  ☆3.2