『その可能性はすでに考えた』(☆3.7)  著者:井上真偽

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 かつて、カルト宗教団体が首を斬り落とす集団自殺を行った。その十数年後、唯一の生き残りの少女は事件の謎を解くために、青髪の探偵・上笠丞と相棒のフーリンのもとを訪れる。
 彼女の中に眠る、不可思議な記憶。それは、ともに暮らした少年が首を斬り落とされながらも、少女の命を守るため、彼女を抱きかかえ運んだ、というものだった。首なし聖人の伝説を彷彿とさせる、その奇蹟の正体とは…!?
 探偵は、奇蹟がこの世に存在することを証明するため、すべてのトリックが不成立であることを立証する!!

Amazonより

 ランキング本でその存在は知っていたけど、なんとなく食指をそそられない表紙、そしてメージをめくると飛び込んでくる外国語(漢字だけど)のルビ、なんかだ◯◯や△△といった、ま◯ろ作品が浮かんできて、結局読まず嫌い状態(←好きじゃなかったのか?)。それでも、このシリーズの第2作も好評だったという事で、図書館で借りてみました。

 美形ながら風変わりな探偵・上笠と、その探偵に大金を貸し付けている元(?)裏社会の女、フーリンの前に、一人の依頼人が登場する。
 依頼人の女性が語る不可思議な光景。どうみても現実とは思えない記憶。普通はなぜそんな事が起こったのかと真相を解明するのが普通の探偵小説の探偵の役割。それに対してこの小説は、それを奇蹟と証明するために、すべてのトリックの可能性を否定していくのが探偵の役割。

 この特殊な設定を活かすために登場する、出るわ出るわキテレツな推理の対戦相手達。 
さらにその対戦相手の繰り出すトリックも中々独創的。普通なら語るには・・・的なトリックもあるけれど、とにかく対戦相手としてはどんな可能性の低いトリックでも、可能性があれば勝ちという超ハンデ戦。どんなバカミス的なアイデアでも、探偵側は真面目に論理を持って否定しなくちゃいけない。結局、やってることはただの推理合戦なのに、方向性が違うとここまで作品の雰囲気が変わるんだなあ。
 設定上、どんな無茶な推理(推論?)もOKなので物語としてメリハリに掛ける危険性もあるし、実際この作品も少し間延びしてる部分があると思ったけれども、探偵の反証についての証拠、あるいは証言はきちんと書き込まれてるし、どんな実現性の薄いトリックを提示されても、きちんと否定してくるスタイルはある意味圧巻。「その可能性は、すでに考えた」は最強の決め台詞でしょ。

 それにしても、こういう話だとどうやって話を終わらせるのか、何しろすべての可能性を否定しなくちゃいけないので心配したのですが、終盤で依頼者に纏わるもう一つのエピソードを挿入してくることによって上手く物語を閉じさせたなと。この部分に関しては取ってつけた感も多少あるけれど、物語の流れ全体からは逸脱したいないので、読後感の増幅になってた。

 色々と作品として気になるところはあると思うけど、著者の挑戦的な試みがそれを補ってると思うし、なんだかんだといって主役のコンビが魅力的。探偵の決め台詞は格好いいし、相棒(?)フーリンのブチ切れそうになったり、優しくなったりの過剰な振り幅のツンデレっぷり(?)も堪らんでした^^
 どこまでこの構成が引っ張る事が出来るか分からんですが、今後も楽しみにしたいなぁ。



採点  ☆3.7