『倒叙の四季 破られたトリック』(☆3.0) 著者:深水黎一郎

イメージ 1

 懲戒免職処分になった元警視庁の敏腕刑事が作成した“完全犯罪完全指南”という裏ファイルを入手し、完全犯罪を目論む4人の殺人者。
「春は縊殺」「夏は溺殺」「秋は刺殺」「冬は氷密室で中毒殺」。
 心証は真っ黒でも物証さえ掴ませなければ逃げ切れる、と考えた犯人たちの練りに練った偽装工作を警視庁捜査一課の海埜刑事はどう切り崩すのか?一体彼らはどんなミスをしたのか。。

Amazonより

 「芸術探偵」シリーズしか読んでいない深水さん。今作の主人公(探偵役)の海埜刑事も出てましたよね?
 で、今作はタイトルから分かる通り倒叙物。四季に例えた4つの短編の章題は「枕草子」の冒頭(「春はあけぼの~」のアレ)をなぞらえてます。ただ、読んでいると季節的なものはそこまで大きくは関係してない印象。

 それぞれの短編の分量はそれほど多くはなく、極力余分な物を配して推理部分にスポットを当てている。短編の中身自体の構成もそれぞれが似通っており、連作短編集として意識してる部分だと思います。

 さて倒叙物の作品といえば近年はやっぱり大倉さんの「福家警部補」シリーズの印象が大きいとは思いますが、それ以前となると小説よりもドラマ「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」の印象が強いです。どちらも完全犯罪を目論む犯人が犯した些細なミスが命取りになっていく倒叙物の王道の構成。犯人がどんなミスをしたのかを探す面白さとともに、物語の過程での犯人と探偵役の駆け引きもまた魅力の一つになってたと思う。
 その点この作品の場合、犯人が犯したミスという部分に関してはうまく処理している。なるほど分かってみればありえそうなミスだし、そのミスの提出の仕方もさりげない。その半面、小説の分量が少なめな為、犯人との駆け引きという部分の醍醐味に関しては淡白。あっという間に犯人が捕まってしまった感じで、そういった意味では倒叙物のある意味欠点が出てきてしまい、「福家警部補」シリーズの域までは達してないかなぁ。

 また、全編に共通する怪しげなファイル、「完全犯罪完全指南」の存在。完全指南といいながら犯人が捕まってしまう部分に関しては、犯人の注意不足だったりあるいはファイル作成者の設定に関する要素が絡んでいて、読み終えてみれば設定の齟齬は思ったほどはないけれど、一方でこのファイルの設定そのものがラストのエピローグの為に設定された感が強い。そのエピローグがやや蛇足感が強いので、作品全体から浮いているような感じになってしまってる。それこそ、「もうひとつのエピローグ」部分を思い切って排除してしまえば、このファイルの設定ももう少し印象が変わってきたんじゃないのかなぁ・・。

 試みとしては嫌いな作品じゃないんですが、もう少し各短編の分量を増やして肉付けのしっかりした作品を読みたいなあ。
 

採点  ☆3.0