『パイルドライバー』(☆2.8)  著者:長崎尚志

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 神奈川県の閑静な住宅街で起きた一家惨殺事件。奇しくも、15年前に同様の未解決事件があり、その時と同じく遺体にはピエロの化粧が施されていた。これは模倣犯によるものなのか?退職を考えている刑事・中戸川俊介が現場に向かうと、そこに長身痩躯の初老の男が現れた。
 彼―久井重吾は現役時代に“パイルドライバー”の異名をとった元刑事で、15年前の事件を捜査していた。アドバイザーとなった久井と共に俊介は捜査を開始。だが直後、犯人と名乗り出た男が殺害されてしまった…。
 次々と浮かび上がる謎また謎。予想を超えるラスト!

Amazonより

 長崎尚志浦沢直樹。自分の中での長崎さんのイメージはこれ。wikipediaを見ると、浦沢直樹とのコンビは『MASTERキートン』(といってもこの作品は僕にとって原作:勝鹿北星なんだけど)から始まり、『MONSTER』『20世紀少年』『BILLY BAT』、、どれも浦沢直樹の代表作といっても言い過ぎではない作品ばかり。

 そしてこの作品、読みながら何度も浦沢直樹の絵が浮かんできた。あまりに刷り込みのイメージが強いからかもしれないけど、ストーリーの運び方はいかにも浦沢作品で見てきた感じがする。15年前の殺人を模倣したような一家惨殺事件。その死体に描かれた異様なメイク。多くの遺留品があるにも関わらず事件に翻弄される警察。そして見え隠れする権力の存在・・。実に浦沢マンガな感じがしないだろうか。
 物語の骨格自体もサイコ・サスペンス的な始まりから、巨大な敵に立ち向かう小さな集団。まさに『20世紀少年』でいう「ともだち」に立ち向かう「ケンジやカンナ達」っぽくないだろうか。さらに権力の闇を絡めていくストーリーは、浦沢作品以外でもリチャード・ウー名義で原作参加した『クロコーチ』にも通じる。こう見ていくと、こういった世界観、ストーリーの形は長崎尚志の書きたい作品なのかもしれない。

 ただ、この作品に浦沢マンガ的魅力を感じると同時に、浦沢マンガでしばしば感じさせてきた物語の終わらせ方の違和感、不満も同じように感じた。『MONSTER』はそれでも読後感は悪くなかったけど、『20世紀少年』の終わり方は、あれだけ序盤からストーリー展開の吸引力、見事なまでの大風呂敷の広げ方に反して、終わり方にすごく不満を感じた。特に「ともだち」の正体に関しては、「え、誰だっけ、それ」と思ってしまった。

 それぞれの素材の魅力、提供の仕方は上手いし、中盤あたりのミステリ的な展開などそれなりに面白いのに、ラストに近づくほどに徐々に嫌な予感がし始め、ラストの解決に関しては再び『20世紀少年』状態。それぞれの物語と伏線が一つ一つではとりあえず解決していくけど、一つの作品の終わり方として見るとどこかチグハグな感じで、それこそ15年前の事件と現在の事件の関係なんか、すでに忘れかけている・・。

 さらにそんな印象に輪を掛けるのが文章。浦沢マンガでは長崎原作のイメージを浦沢直樹の絵が肉付けし、世界観を広げてくれていたけれど、小説ではその絵がない部分文章そのものがそのイメージを作っていかなければいけないのけれど、どこかイメージが湧きにくくマンガの原作を読んでいる気分になる。特に登場人物のキャラクターにその傾向が顕著に見られて、たくさん出てくる警察官の面々なんて、それなりにキャラが重要にも関わらず、こいつ味方だっけ、敵だっけと分からなくなってくる。(中途半端な登場人物一覧もそれに輪をかけてる)。


 予想を超える、というより予想できない犯人の正体、結局なんだったのか深く掘り下げられないグループの姿。中途半端なモヤモヤ感が残ってしまった。
 もしかたら、浦沢直樹が漫画化したら、意外に面白い作品になるのかも・・・。

 

採点  ☆2.8