『悪いうさぎ』(☆4.4) 著者:若竹七海

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 女探偵・葉村晶(あきら)は、家出中の女子高校生ミチルを連れ戻す仕事を請け負う。妨害にあい、おまけに刺されてひと月の安静をやむなく過ごした矢先、今度はミチルの友人・美和を探すことに。
 やがて見えてくる高校生たちの危うい生態──親への猛烈な不信、ピュアな感覚と刃物のような残酷さ──その秘めた心にゆっくり近づく晶。打ち解けては反発するミチル、ナイスなゲイの大家・光浦たちとともに行方不明の同級生を追う。
 好評の葉村晶シリーズ、待望の長篇!



Amazonより

 葉村晶シリーズ第3弾にして初の長編。前作のラスト、かなり意味深な終わり方をしたけれど、何気にスルー(笑)。ただ、ほのぼとした表紙に反して、結構ダークな内容、そして今まで以上に不運に振り回される姿はこれまでと変わりません。というよりも、さらに磨きがかかってます。

 オープニングからいきなり不運というか、こんな探偵イヤだろっていう男のせいで怪我をさせられる。そこから始まる最悪の一週間。最初はミチルの友人の家出を探すだけだったはずが、他にも行方不明の女子高生がいたり、さらには晶の友人・みのりの結婚話、晶に逆恨みする人物も登場して、そのたびに振り回されていく。それぞれのエピソードがどこまで関係しているのかは中々わからないんだけど、どんな行動をしても裏目に出てしまう展開は、まさに日本一不運な女探偵の面目躍如(?)。

 とにかく、今回の登場人物たちは善悪を問わず、何かの秘密を抱えている。晶の調査の過程で、その秘密は少しずつ明らかになっていくけれど、メインの行方不明事件の全貌は中々みえてこない。このあたりの雰囲気作りというか構成はさすがというか、見えない中でもどこからとも無くにじみ出てくる嫌な感覚は、晶を、読者を不安にさせていく。

 そして事件の全貌が明らかになるクライマックス。少しずつ感じていた嫌な予感が当たったちうか、そのあまりに悪意と残酷さに満ちた展開には、絶望的な気分になる。さすがに現実にここまでの事件は無いとは思うけれど、でも実際に起きないとは言い切れないリアル感を含んでいる。事件に関わる人物(それ以外の人物も含め)の鬱々した感情が共感は全くできないが、理解出来ないことは無いとも感じさせてくれるのは、描写のバランスだろうか。

 葉村晶という探偵は、シリーズを通して決してスーパーな探偵ではない。相手に暴力を振るわれれば怪我をするし、ピンチに陥れば弱音も吐く。友人の為を思って行動したら、結果自分も傷ついてしまう。また、この作品では女性としてのエピソードもさり気なく入ってきている。彼女の視点は、あるいみ読者と同じ目線だと思う。一人称で語られる分、彼女が理解出来ていることは、読者に理解する事が出来るし、その悩みもまた共有できる。そして、これだけ不運に見舞われながらも、事件から眼を背けない強さにも驚嘆することができる。いったい何が彼女をここまで事件に喰いつかせるのか、本当のところは、たぶん晶にも言葉では説明できない部分でもあるだろうけど、その言葉に出来ない部分の存在を理屈でなく読者と共感できる部分はすごくあると思うし、シリーズの評価にもつながっていると思う。

 事件を通して自分の強さも弱さも否が応でも見せつけられた葉村晶が探偵としてこれからどういう道を進んでいくのか、すごく楽しみだ。


採点  ☆4.4