『許されようとは思いません』(☆4.0)  著者:芦沢央

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 あなたは絶対にこの「結末」を予測できない! 新時代到来を告げる、驚愕の暗黒ミステリ。
 かつて祖母が暮らしていた村を訪ねた「私」。祖母は、同居していた曾祖父を惨殺して村から追放されたのだ。彼女は何故、余命わずかだったはずの曾祖父を、あえて手にかけたのか……
 日本推理作家協会賞短編部門ノミネートの表題作ほか、悲劇をひき起こさざるを得なかった女たちを端整な筆致と鮮やかなレトリックで描き出す全五篇。

Amazonより

 芦沢さんの作品はこれが初めて。映画版の『罪の余白』はイマイチだったけど、映画的に省略されてた部分もあるような気がするので、これはこれで原作を読もうと思うのですが。
 という事で、いまいちどんな系統の作家さんなのか分からないままの読書。

いやぁ・・

黒っ!!

 どの短編もまあ見事にハッピーじゃないし。いや、なかにはなんとなく前向きな終わり方なのかな、と思えなくもない作品もある・・・いや、やっぱりない。
 とにかく事件の中心にいる人物の考え方というか発想というか、それがもう追いつめられた感満載。しかもそれが妙にリアリティがあって、身につまされる。もしかしたらこんな事ってありうるよな~・・・。
 ミステリとしてみても、その後味の悪い部分がきちんとミステリとしての意外性につながっていて、なおかつその意外性がより一層後味の悪さを強くしてくれてます。
 イヤミスと言われる作品を殆ど読んでないので、どういうのがイヤミスなのか、この作品がイヤミス系なのか自信はないですが、適度な長さの中にあるとにかくイヤ~~~な感覚を十分楽しめる作品でした。


『許されようとは思いません』
 表題作。村八分の状態で末期ガンの曾祖父を殺した祖母。なぜ彼女は殺人を起こしてしまったのか。
 孫にあたる「私」とその恋人が事件の真相を推理する構成は収録作の中で一番ミステリ形式になってると思います。村八分の描写も実にまぁ嫌な感じですが、タイトルの言葉に込められた祖母の感情がとにかく哀しく、そしてクロい・・・。


『目撃者はいなかった』
 誤発注を誤魔化す為に、偽配達員に扮した男の前で起きた交通事故。目撃したのとは違う方向で事件が進む中、証言をすると自分のミスがばれてしまう。男は本当の証言をするのか。
 収録作の中で一番クロくない、というより一番同情できない話。いや、気持ちは分かるし、もしかしたら同じ事をしちゃうかもしれないけど・・・。ミステリ要素はそれほど強くないけれど、キーワードとなる言葉の使い方は上手いなぁ、と思いました。


『ありがとう、ばあば』
 雪も降る旅行先のホテルで突然孫に締め出された祖母。どうして孫はこんな事をするのか。
 収録作の中では一番印象に残ったし、なんともいえない黒さも強烈。ストーリーの展開はわりとありがちだし、祖母よ孫の気持ちの早く気付けよ!!と思ってたのですが、ラストの一行、そうきたか~~~。

『姉のように』
 子育て中の姉が起こした事件。同じく子育て中の妹は周りの視線に少しずつ追い詰められていき・・
 精神的に追い詰められ子供に手をだしてしまう妹の心理描写が実にリアル、いかにも今の時代にありそうな家族・友人たちの描写と合わせて、こういう風に虐待が始まることもあるんだろうな、と思わされる。
 ミステリとしての意外性とストーリーの絡み方は収録作の中では一番弱く感じたけれど、後味の悪さは逆に収録作の中で一番かも。。


『絵の中の男』
 自らの悲惨な体験を絵画として昇華させ評価されている女流画家が起こした、イラストレーターの夫殺害事件。どうして事件は起こってしまったのか。
 物語の完成度は一番高いかも。夫婦の一方の視点だけでなく、それぞれの抱える思いが物語のイヤミス度(?)を高めてくれます。真相そのものは途中で気づく事が出来るけど、その先にもう一つの感情が怖い。。



採点  ☆4.0